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社説・コラム

社説 「辺野古」不承認 計画見直す契機にせよ

 沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設をめぐり、玉城デニー知事は、防衛省が地盤改良工事のために申請していた設計変更を不承認とした。埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤対策などが不十分だとしている。

 政府は対抗手段を講じる準備を進めている。法廷闘争は避けられない情勢で、再び県との対立が先鋭化する懸念がある。

 岸田文雄首相は「聞く力」をアピールするが、新基地に反対する県民の思いを軽視するようなら、民意を無視し続け批判されてきた安倍、菅政権と変わりない。沖縄の声に真摯(しんし)に耳を傾ける必要がある。まずは工事を中断して、玉城氏との協議のテーブルに着いてもらいたい。

 埋め立て予定海域には、最深で水面下90メートルまで「マヨネーズ状」とされる軟弱地盤が広がっていると指摘される。防衛省は地盤強化のために砂ぐいを約7万本も打ち込むという。

 しかし国内にある地盤改良船が工事できるのは水深70メートルまでで、防衛省が計画する打ち込み工事も70メートルまでだ。その妥当性を示す地盤データは示されていない。完成しても沈下や液状化の恐れがある。

 さらにこの海域には希少なサンゴも生息している、政府は移植するとしているが、その技術も確立されていない。

 軟弱地盤の改良工事に伴い、総工費は当初の3倍の9300億円に膨らんでいる。裁判が長引けば、さらに増大するだろう。工期も大幅に伸び、予定通りに進んでも2030年代半ばまで掛かる。

 工事が完了するまでは普天間返還は実現しない。政府が繰り返す「一日も早い」普天間の危険性除去という名目はもはや現実味を失っている。

 辺野古新基地建設に対しては、県民の多くが反対の民意を示してきた。玉城氏は18年9月の知事選で建設阻止を訴え、圧勝した。埋め立ての賛否を問う19年2月の県民投票では7割が反対票を投じた。

 にもかかわらず、政府は「辺野古移設が唯一の解決策」と工事を強行し続けてきた。対話を求める玉城氏の要請にも応じていない。

 翁長雄志(おなが・たけし)前知事も3年前、軟弱地盤の問題が判明したなどとして、埋め立て承認を撤回すると表明した。そして玉城氏が再び法的な権限で工事をストップできる不承認という「最後のカード」を切った。2度にわたる県のトップによる意思表示を、政府は重く受け止めるべきだ。

 「普天間飛行場の5~7年以内の全面返還」としていた日米合意からすでに25年が過ぎた。海上ヘリポートの建設だった当初の計画は2本のV字滑走路建設などに大きく変容した。普天間返還と代替施設とする辺野古の埋め立てが一体という政府の論拠は整合性を欠いている。

 玉城氏が「工事は完成しない。政府は計画を全て中止し、沖縄県が求めている対話による解決の場を設定してほしい」と求めたのももっともだ。

 来年は沖縄の本土復帰50年を迎える。国土のわずか0・6%である沖縄に米軍専用施設の7割強が押しつけられてきた事実は重い。

 政府は辺野古の計画をいったん白紙に戻し、代替施設の建設とは切り離して、普天間の即時返還に取り組むべきだ。

(2021年11月27日朝刊掲載)

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