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社説・コラム

社説 ベラルーシの難民問題 人道的視点で救援急げ

 ベラルーシ西部のポーランド国境に、中東からの難民や移民が大勢押し寄せ、問題となっている。ポーランドを入り口として、欧州連合(EU)加盟国に入るためである。

 ポーランドは国境警備を強化しており、越境が認められない数千人が行き場を失っている状態だ。地元メディアによると、厳しい寒さの中、亡くなる人も出ているという。

 ベラルーシ政府が難民たちに観光ビザを発行しており、その多くを国営旅行会社があっせんした可能性も指摘される。複数の難民たちがベラルーシ当局の支援で国境にたどり着き、越境を試みたと証言している。

 EUは、ベラルーシが不法な越境を支援し政治目的で利用しているとして非難している。難民たちの命を危険にさらし、政治的駆け引きに使っているのだとしたら許されない。人道的見地から対応を急ぐ必要がある。

 国境に集まった人たちはシリアやイラクからの難民で、その多くは、イラクを追われた少数民族クルド人とみられている。

 ことしの夏以降、国境付近に殺到するようになったという。鉄条網越しにポーランドの警官隊が重装備で構え、放水車を繰り出すなどして移民や難民の流入を阻止している。

 こうした事態の背景には、ベラルーシのルカシェンコ大統領と欧米諸国との対立がある。ルカシェンコ氏は1994年から強権統治を続け、「欧州最後の独裁者」と称されている。

 昨年の大統領選後には、選挙結果に不正があったと抗議する市民の大規模なデモが続いた。当局は市民を弾圧。EUは、ルカシェンコ氏と政府高官の資産を凍結するなどの制裁を加えてきた。

 今年5月には、反体制派ジャーナリストが搭乗していた欧州の旅客機をベラルーシ当局が強制着陸させる事件も起き、EUは制裁を強化した。ベラルーシと国境を接するポーランドなどで、中東などからの移民が不法越境するケースが急増したのはそれからだという。

 ベラルーシ政府は、国境付近で足止めされている一部を近くの物流倉庫に移動させ、食事を提供するなど人道的に支援していると強調している。その上で、EUにも一部を受け入れるよう求めている。

 しかしEUは、ベラルーシが制裁の報復のために意図的に移民や難民を送り込んでいるとして新たな制裁を検討して圧力を強めている。このままでは両者の対立は深まるばかりだろう。

 急がれるのは、いまも国境で悲惨な状況に置かれている人々の安全の確保である。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も適切な場所に移動させる必要があると訴えている。まずはEUもベラルーシも政治的対立を脇に置いて話し合い、人道危機の回避を急がねばなるまい。

 今回の難民問題は、自由や人権を尊重するEUの価値観を揺さぶっているとも言えよう。懸念されるのは新たな対立や分断だ。ポーランドと隣接するリトアニアは、ベラルーシとの国境に壁を建設する計画である。しかし壁の建設では根本的な解決にはならないはずだ。

 EUはもちろん、ベラルーシと同盟関係にあるロシアも含め国際社会が手を携え、解決策を探らなくてはならない。

(2021年11月29日朝刊掲載)

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