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社説・コラム

アフガン 高まる人道危機 共同カブール通信員 安井さんに聞く 経済が崩壊 相次ぐ子ども餓死

 アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが政権を掌握し、3カ月余りが過ぎた。国際社会で孤立する中、在外資産が凍結されるなどして経済が崩壊し、貧困と飢餓が深刻化しているという。何が起こっているのか。現地に定住し、共同通信カブール通信員を務める安井浩美さん(58)=京都府出身=にオンラインで人道危機の現状を聞いた。(桑島美帆)

  ―8月下旬に自衛隊機でパキスタンに退避した際、大きく報じられましたね。今月14日、いったんカブールに戻ったそうですが、今はどうなっていますか。
 各省庁の前など街の至る所で、銃を構えて警備に当たるタリバン兵を見かける。国民の中には、(ソ連軍撤退、内戦を経てタリバンが最初にカブールを制圧した)25年前を多くの人が記憶しており、恐怖を感じている。旧政権下の警察官や諜報(ちょうほう)機関の関係者だった人が連行されて行方不明になるケースも相次ぐ。人通りが極端に減り、通勤ラッシュもなくなった。給料の支払いが滞り、市民が出勤をやめたからだろう。

  ―子どもの餓死が相次いでいるとメディアで報じられています。
 最近、カブール市内の公立の子ども病院を取材した。栄養失調の子どもが普段の2倍以上収容されており、餓死寸前の子も多かった。親の収入が絶たれ、カブール西部で、きょうだい8人が餓死した痛ましい事件も発生した。父親は既に亡くなり、母親は入院中だった。閉ざされた家の中で、子どもたちは人知れず息絶えたのだろう。

  ―女性の人権も危ぶまれています。
 女子教育は小学校までしか認められていない。まれに働けるとしても、タリバンが必要性を認識し始めた医師や看護師などの職種に限られる。収入を得るため、自分の娘を身売りする人も増えている。臓器売買や性売買の恐れがある。

 私は米中枢同時テロ後の2001年にアフガニスタンに移住し、自宅の工房で女性たちにかばんなどを作ってもらって販売する自立支援を続けてきたが、現在は休止している。何とかタリバンの許可を得て再開し、女性の働き口を確保したい。

  ―国際社会に求めることは何ですか。
 海外支援で成り立ってきたアフガニスタンだが、現在は政治経済の機能が停止している。市民は命を脅かされ、国外に脱出したくても多くはお金がない。国際社会がタリバン側と対話し、人道支援のスピードを上げることが重要だ。

  ―アフガニスタンの人たちから、被爆地広島はどう見えていますか。
 広島に原爆が投下されたことは誰もが知っている。ただ、まだ復興半ばと思っている人も多く、現在について教えると驚かれる。アフガニスタンは広島のように街が壊滅したわけではないが、平和とはほど遠い状況だ。将来の希望を失っている人々のことを決して忘れず、どんな小さなことでも手を差し伸べてほしい。

タリバンからの逃避行描く 10日 広島・横川シネマで公開

 アフガニスタン出身のハッサン・ファジリ監督(42)が撮影したドキュメンタリー映画「ミッドナイト・トラベラー」が12月10日、横川シネマ(広島市西区)で公開される。11日午前の上映後は、安井さんのオンライン・トークイベントがある。

 2015年にイスラム主義組織タリバンから死刑宣告を受けた監督が、妻と幼い娘2人を連れてトルコなどを経てヨーロッパにたどり着くまでの過酷な逃避行を自らスマートフォンで撮影した。87分作品。上映は来月23日まで。

(2021年11月29日朝刊掲載)

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