×

連載・特集

広島世界平和ミッション 南アフリカ編 虹の彼方に <8> 平和教育② 対話による和解 根底に

 児童からうめき声が上がる。ガラス片が目に刺さった被爆者の治療シーンが、講堂のスクリーンに映し出されていた。

 ヨハネスブルクの私立校のセイクリッド・ハート学園。市中心部にほど近い学校を訪ねた広島世界平和ミッションのメンバーは、持参の原爆映像ビデオを上映するなど約五百人の児童・生徒に被爆の実態を伝えた。

 ハート学園は幼稚園から高校まで千人余が学ぶ。一九七六年、白人治安部隊によるデモ隊への発砲で、黒人居住区の子どもたちが犠牲になった「ソウェト蜂起」をきっかけに、国内で初めて白人の学校に有色人種を受け入れた。ネルソン・マンデラ前大統領の孫とひ孫も通っている。

質問真剣に■

 ビデオの上映、被爆者の寺本貴司さん(69)の証言の後、質問を募ると三十人近くが一斉に手を挙げた。「広島に放射能は残っていますか」「原爆を落とした人を憎んでいますか」…。一人ひとりの真剣な問い掛けに、寺本さんらメンバーが丁寧に答えた。

 薬剤師の津谷静子さん(49)が、児童の代表に英文の被爆絵本を手渡した。「この本を読んでもっとヒロシマを知ってください」。そして世界の戦争難民らに医薬品を贈る自らのボランティア活動を紹介しながら「一度戦争で傷ついた心は医薬品では治りません。戦争を起こさないことが大切です」と訴えた。

 小学校高学年に続き、中学、高校生との平和交流も持った。中学二年のプリアンタ・ムードゥリさん(13)は、贈られたノートルダム清心中(広島市西区)の生徒からの平和ポスターを手に「平和への願いは私たちも同じ。これから交流を始めたい」と話していた。

 小学六年担任で、平和教育カリキュラムの責任者ジャニー・ジャガー教諭(43)は「南アは私たちの世代が話し合いで平和を築いてきた。やっと手に入れた平和と民主主義を次の世代につなぎたい」と熱っぽく語った。

 学年ごとに扱うテーマは異なっていても、根底には「対話による和解」の精神が流れている。

 園児、児童は「平和のイモムシ」に夢中だ。一人ずつイモムシの絵を描き教室に張り出す。「家族に優しくした」「地域のために良いことをした」。身近な平和を実現するたびにシールを張る。イモムシがいっぱいになったら、チョウのバッジがもらえる。

 中学、高校生はスケールが広がる。約三カ月かけて三つの課題を学ぶ。まず、世界の平和に貢献した人物「ピース・メーカー」の足跡を調べる。次はアフリカ大陸の紛争について。アパルトヘイト(人種隔離政策)の歴史で学習を仕上げる。

 ピース・メーカーにはマンデラ前大統領や、インド人で南アに二十一年間暮らした非暴力主義者のマハトマ・ガンジーらがいる。寺本さんもその一員に加えられた。

「夢を託す」■

 ジャガー教諭は「アフリカ全土にはまだ紛争が絶えない。紛争を平和的に解決していけるアフリカのリーダーへ、そして世界の平和に貢献できる子どもたちを育てたい」と夢を語った。

    ◇

 平和ミッションのメンバーは、初の訪問地で八日間にわたる平和交流を終えた。深刻な貧困やエイズ禍の実態に衝撃を受けたが、対話によって人種間の対立を乗り越え、「虹の国」の理想に向かって突き進む新しい国の息吹も感じた。身近になった南アの人々との将来の平和交流を予感しながら、次の訪問地イランへと向かった。(岡田浩一)=南アフリカ編おわり

(2004年5月18日朝刊掲載)

年別アーカイブ