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実績踏まえ 選定に期待 G7広島誘致表明 首相のお膝元 優位性も

 広島市や広島県が30日、誘致を目指すと表明した2023年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)。市は過去の国際会議の受け入れ実績などから開催基準を満たしていると自負。岸田文雄首相のお膝元としての優位性も見込み、被爆地から平和のメッセージを世界に発信する好機と捉える。ただ、各国の首脳が集まるサミットの警備態勢は桁違い。政府の選考過程も不透明で、先行きは見通せない。

 「世界の要人を招き、核兵器廃絶の必要性を訴えてきた。首脳が集まるサミット誘致に手を挙げるのは当然だ」。市の幹部はこう強調した。08年の主要国(G8)下院議長会議や、16年に三重県で開かれた伊勢志摩サミットに先立つ外相会合が念頭にある。

 同年にはオバマ米大統領(当時)を、19年にはローマ教皇フランシスコを迎えた。「警備態勢も施設も十分にある。メリットをしっかり認識してもらえれば誘致できる」。この日、湯崎英彦知事、広島商工会議所の池田晃治会頭と記者会見した松井一実市長は、被爆地からの平和発信という意義に加え、開催基準も満たせると説明した。

 16年4月の外相会合では、広島県警などが約4300人態勢で警備に臨んだ。一方、同年5月の伊勢志摩サミットでは最大約2万3千人が警備に動員された。別の市幹部は「各国トップが集まるサミットの開催条件は、格段に厳しい」と見据える。

 市は16年のサミット誘致では落選したが、政府側から理由は示されていないという。政府が開催地に選んだのは、各自治体による応募を締め切った後に名乗りを上げた三重県。首相官邸が白羽の矢を立て、応募を促したとされる。開催地の決定は官邸による政治判断になるとの見方は多い。

 当時、市の連携推進担当部長として誘致を担った行広真明・中区長は「外務省関係者から、施設面を含めていつでもサミットをできるとの評価はもらったと認識している。足らない点があればしっかりと国と議論して補っていくことが重要ではないか」と話した。

 サミットには核兵器保有国の米国、フランス、英国の首脳も参加するが、市の幹部は「原爆を投下した米国の現職大統領が一度来ているので、今回は来やすいのではないか。受け皿はできている」とみる。

 16年の外相会合を経験した市の関係者は岸田首相の存在に注目。「核保有国が3カ国もいるだけに被爆地での開催は簡単ではない。だからこそ岸田さんが首相でいる今回実現できなければ、今後も難しいのではないか」と期待を抱く。

核保有国の判断も焦点

 広島市や広島県が2023年のG7サミットの誘致に名乗りを上げた30日、政府も「広島は世界平和の象徴だ」と被爆地開催の意義を認めた。宿泊施設数などの課題も指摘されるが、最大の焦点は核兵器保有国の米国、英国、フランスが受け入れるかどうか。核兵器廃絶を「ライフワーク」とする岸田文雄首相(広島1区)の意向も反映される。

 「広島は戦争被爆地との歴史的経緯から、強く世界平和を訴える象徴的な場所だ」。30日の記者会見でこう訴えたのは松野博一官房長官。首相の地元の熱意をくんでの発言とみられる。

 開催地決定の22年には広島の後押しとなる会議が相次ぐ。1月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議、3月は核兵器禁止条約の第1回締約国会議が開かれる。両会議で成果が得られることを前提に、外務省幹部は「広島開催が実現すれば平和の尊さを世界に広げる好機になる」とみる。

 一方で政府・与党内には広島開催の可否を握るのは米英仏の各首相の意向次第との見方がある。特に米国は「原爆投下は終戦を早めた」との肯定論が根強い。支持率が低迷するバイデン米大統領は22年11月に重要な中間選挙を控え、尻込みする可能性も考えられる。

 日本政府は広島以外にも福岡県・市、愛知県・名古屋市が立候補表明していることから、慎重に検討を進める方針だ。林芳正外相(山口3区)は30日の記者会見で「宿泊施設や会議場、交通アクセス、警備などあらゆる観点から総合的に検討して判断する」と、従来と同じ受け答えに終始した。(樋口浩二、口元惇矢)

(2021年12月1日朝刊掲載)

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