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広島世界平和ミッション イラン編 ベールの向こう <4> 文明間の対話 「人と人」 きずなの原点

 イランに来て初めてシャンデリアを見た。二十人が囲める大きな円卓。各席には同時通訳用のマイク設備もあった。

 テヘラン市内の「文明間の対話国際センター」は、広島世界平和ミッションの一行が訪ねたどの施設より豪華だった。現政権の入れ込み具合がうかがえた。

 スウェーデン大使などを歴任したマフムー・ブルジェラミ所長(70)は「戦争の世紀と呼ばれた二十世紀から平和の世紀にするため、世界に対話を呼び掛けたい」と切り出した。

印象変わる■

 「文明間の対話」は改革派のモハマド・ハタミ大統領が一九九八年、国連総会で提唱した。対話を通じて多様な文明と共存し、欧米との交流の道も開く。この考えを具体化する中核施設がセンターである。

 昨年九月には日本の学識経験者を招いて「宗教と文化の近代化」をテーマにセミナーを開き、センターの研究員と意見を交わした。

 「一部の日本人はイランを危険な国だと見ている。私自身はイラン人の穏やかな人柄に触れて印象が変わった。直接会って話す大切さを実感している」。大学助教授の藤本義彦さん(39)の率直な意見に、ブルジェラミ所長は苦笑しながらうなずいた。

 「溝が最も深い米国との対話は、どう進めますか」。他のメンバーの質問に所長は「ブッシュ政権に不満を持つ米国民も大勢いる。そういう人々に呼び掛け、信頼を築く手掛かりにしたい」と冷静に答えた。

 一方で「米国が戦争を始めたイラクでは、すでに数多くの米国企業が活動を始め、イラク経済を支配しようとしている」と、厳しい本音の発言も。ブルジェラミ所長はさらに、これまでの米国の中東地域へのさまざまな干渉を批判した。

 メンバーはイランの核兵器開発の問題についても尋ねた。ブルジェラミ所長は「われわれには核兵器を造る権限はない。しかし、核拡散防止条約(NPT)が認めるように、原子力の平和利用の権利はある」と身を乗り出して言った。

 センターを後にした藤本さんは感想をもらした。「国際社会に対して自己主張の強かったイランが対話を打ち出した点は興味深い。ただ本音の部分は、今後の行動を見守らないと分からないな」

欧米のCD■

 テヘランは総人口の15%に当たる一千万人が集中する大都市。終日大渋滞が続く。小型バスの車窓からビルの壁画が見えた。米国の星条旗だが星の部分にがい骨、赤い線の先に爆弾が描かれている。英文で「くたばれ 米国」のスローガン。こんな所にもイラン人の根深い反米感情が表れていた。

 ところが、バザールのひしめく店頭には販売が禁止されている欧米のポップスや映画音楽のCDがあふれていた。テヘラン市民によると、市内の全世帯のほぼ半数が衛星放送で欧米の番組に親しんでいるという。

 市内を散歩中、若者に話し掛けられもした。藤本さんは「統制は厳しいようでも、がんじがらめではない。『悪の枢軸』というような敵視は、イラン人の姿勢をかえってかたくなにするだけ」とレッテル張りを戒めた。

 「一方的な価値観で国際問題をとらえず、多角的に判断する力を学生に付けることが、対話の第一歩になる」。その思いを強くした藤本さんは、帰国後、イラン報告を加えるなど大学の平和学の授業内容を大幅に見直すつもりである。

(2004年6月3日朝刊掲載)

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