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連載・特集

広島世界平和ミッション 第二陣の思い <2> 井下春子さん(72) 広島市南区皆実町

思い込み捨て議論を

 一番近い隣国を見る日本の姿勢は、偏りがあるという。韓国、朝鮮民族と聞けば「無条件で褒めてしまう」か、「ややこしそうと敬遠する」。そのどちらも「思い込み」と切り込んだ。韓国との付き合いは、日本のメディアが「軍事独裁政権」と呼んでいた一九六〇年代にさかのぼる。

 広島鉄道管理局(JR西日本)で働きながら広島大文学部を卒業し、中学で社会科を教えていた。洗礼を受けたキリスト教団が「戦争責任」の告白に踏み切る中で、日本の三十六年間に及ぶ植民地支配や、戦後のねじれた関係など絡み合った問題に目をむけた。

 広島で被爆して祖国に戻り、日韓のはざまで援護から見捨てられていた在韓被爆者の救援活動にも、一人の市民として早くから取り組んだ。

 もっとも、政治的な問題ばかりでは息がつまる。隣人が何で笑ったり、泣いたりするのか。息遣いを知りたいと八二年、ソウルの延世大に語学留学した。「下の子は大学受験を控えていましたが、まあ、家族の理解があったということで」

 肩ひじを張らずに韓国へ飛び込んだ。

 一年半かけ、最上級の六級を取得して語学堂を卒業。民主化前の騒然としたキャンパスで、街で出会った市民と語り合った。そこから「韓国は外国」と自然に思えるようになった。「政府に抗議してデモをする学生も、国が強くなるのがなぜ悪いと言う。日本と違うことを知った留学でした」

 だからこそ、人気のテレビドラマ「冬のソナタ」にみられる韓国の大衆文化に熱いまなざしを送る日本の今のブームにも、落とし穴をかぎとる。

 「訪ねてみたら案外よかったねという若い女性の声も、韓国を日本と同じという感覚、延長で見ている。そこに思い込みがあります」

 今回のミッションには、「中国人が日本との戦争や関係をどう見ているのか。反日といった思い込みにとらわれず本音で議論したい」と期待し、応募した。

 「昭和一けた生まれ」として時代の足取りを見直し、次世代につなげたいという。若々しさがあふれる。

(2004年6月8日朝刊掲載)

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