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連載・特集

広島世界平和ミッション 第二陣の思い <3> 岳迅飛さん(32) 東広島市西条町

中日の心の懸け橋に

 中国内モンゴル自治区の政府選抜日本留学生として十九歳の春、天津から乗船した。「日本人」と聞いて浮かぶのは、母国を侵略した日本軍の残忍さ。幼いころから授業で習い、映画でも再三見た。気持ちは波をかき分ける船のようには進まなかった。

 それから十三年後。「よき先生と友に出会い刺激され、日本民族は素晴らしいなと思います」。歯切れのよい日本語で語る。くしくも誕生年は、日中両国の国交正常化に当たる一九七二年。

 広島大大学院文学研究科で東洋史学を専攻する。明治期の日本に留学して中国で口語体の新聞を創刊した先駆者、林白水の生涯をテーマとして博士論文に挑む。岡山での大学四年間は新聞配達を続け、今は官公庁や企業の通訳で生活費を賄う。

 論文執筆とアルバイトの両立という厳しさにもかかわらず、今回のミッションに応じたのは「中国と日本の懸け橋になりたい」との志から。友好をうたいながら、その関係は「心が通じ合っていない」。顔をくもらせた。

 今年に入っても、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権をめぐり、国民レベルでもとげとげしい感情が噴き出す。

 「日本のお年寄りは古き中国に、若い人は経済に関心を寄せても、中国の現実を知ろうとしない」。同時に「わが国も教科書で明治維新を高く評価していたのに今は削除し、侵略から教える。それが、インターネットでの過激な言論を生む背景にある」とみる。互いの偏狭な考えを憂う。

 「原爆投下についても、『自業自得』と見る人が多い。市民が無差別に殺されたことが知られていないからです」。政治体制も歴史認識も違う中国で、核兵器が人間にもたらした悲惨さを、どこまで伝えられるか。難しさを知る分、やりがいを覚える。「歴史を学び、分かち合う。ヒロシマで学んだ経験と感動を、母国の同胞と共有したい」

 日本留学の際、大学教授の父から「好男子の志は天下に在り」との言葉を贈られた。それを貫かんとする。

(2004年6月9日朝刊掲載)

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