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連載・特集

広島世界平和ミッション 第二陣の思い <4> 森上翔太さん(20) 廿日市市宮園出身

説得より事実の共有

 どちらが本当なのだろうか。自問自答する。日本の「戦争責任」をめぐって、中国や韓国の険しい声をニュースで接するたび、「やはり反日なのかなぁ」「原爆の話なんか見向きもされないんだろう」と思う。でも、中国を旅した友人からは「若い世代は、日本の過去を厳しく見ながら、新しい日中関係を語る人が増えている」と聞く。

 「自分で確かめ、語り合ってみたい」。中国と韓国を巡る今回のミッションに応じた動機だ。

 家族にも被爆者はいない。それが広島学院高二年の夏、高校生の英語スピーチ全国大会へのテーマに、「被爆体験の継承」を選んだ。広島といえば原爆という、「ありがちな考えでした」と苦笑いを浮かべた。

 スピーチ原稿を書くため、被爆者の証言グループを訪ねた。十代で左目を失った男性からは「死んだほうがましと、悔やみ続けた」と告げられた。淡々とした口ぶりに悲しみ、重みを感じた。大会で優勝を飾った。うれしさと同時に、「原爆は話のネタじゃなくて、語る以上は自分なりに責任がある」との考えが膨らんできた。

 東京大学に進み、今は国際関係論を学ぶ三年生。首都圏の大学の英会話サークルが集まるスピーチ大会では、平和への訴えを主眼に語った。最新の時事問題を議論するのが流行とはいえ、入賞すらできなかった。

 「メッセージ色が濃すぎると、伝えたい事実も拒絶されてしまう」。その経験から、ヒロシマを継承し、未来につなげる役割をこう考える。

 「説得しようとしたり、メッセージを知らしめることより、被爆の歴史や核兵器を使ったらどうなるかを純粋に伝え、相手に託することだ」

 初めての中国と再訪する韓国で、同世代と語り合える機会を楽しみにする。「歴史を単純に関連付けて、どっちがいい、悪いとの言い合いはしたくない。人間の視野を広げる議論をしたい」と願う。

 派遣が決まり、中国と韓国ポップスの「予習」も始める。旺盛な精神で世界に向き合う。

(2004年6月10日朝刊掲載)

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