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連載・特集

広島世界平和ミッション 第三陣の横顔 <4> 山田裕基さん(27)=廿日市市上平良

核・戦争から福祉問う

 主権移譲を前に「暴力」が支配するイラクでは連日、多くの死傷者が出ている。テレビに映し出される死者や、手や足を失った子どもや大人たち。こうした姿を目にするたびに、やるせない思いに駆られる。

 「何の罪もない子どもたちが戦火におびえ、そのうえ命を落としたり、障害まで負うなんて理不尽極まりない。戦争はいつも多くの障害者を生んでいる」と憤る。

 小さい時から人一倍、障害者の福祉について関心を向けてきた。三つ違いの弟が知的な遅れと、肢体不自由の重複障害があるからだ。家族で協力して弟を支えてきた。早稲田大では、人間健康科学科を専攻し、福祉機器開発のための基礎を学んだ。

 「皮肉なことだけれど、米国のリハビリテーション技術は、ベトナム戦争で大勢の兵士が障害者になったのをきっかけに発展した。戦争と障害者福祉がこんな形でつながるのは、悲しいことです」

 卒業後は、広島県内の社会福祉協議会の専門員として地域福祉活動にかかわった。が、「障害者の職業訓練や就職支援の分野に進みたい」と、昨年職を辞し、新たな道を目指す。職場は違っても、障害者や高齢者の福祉サービスに携わりたいとの思いは変わらない。

 しかし、イラクの現実が示すように、福祉という分野だけに目を向けていては不十分だと気づき始めた。「福祉の基盤は、何よりも確かな平和。その平和をしっかりと築いてこそ、充実した福祉も実現できる」

 核兵器に象徴される軍事力や、罪なき人々を巻き込むテロ行為によっては、本当の平和は決して訪れない。

 では、どうすれば平和を実現し、福祉の発展にもつなげることができるのか。そんな疑問を抱いている折に目にしたのが、平和ミッションへの参加の呼び掛けだった。迷わず応募した。

 訪れるフランスや英国には、かつての大気圏核実験に参加して大量の放射線を浴び、後障害に苦しむ被曝(ばく)者がいると聞く。劣化ウラン弾の被害者も…。

 「彼らはある意味で国の核政策や戦争政策の犠牲者。病気や障害を抱えるこうした人たちと意見を交わし、核や戦争の問題と福祉がどうかかわっているのか、しっかりと見極めたい」

 きまじめな表情が、一段と引き締まった。

(2004年6月27日朝刊掲載)

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