×

ニュース

原爆極秘開発 若者の群像劇 黒崎監督 「映画 太陽の子」 時代の荒波 科学者の葛藤

 太平洋戦争末期の京都帝国大(現京都大)で極秘に進められた原爆開発を題材とした「映画 太陽の子」が10日から、広島市中区の八丁座で上映される。時代の荒波にさらされながら、未来を見つめ続けた若い科学者たちを描く群像劇。脚本も手掛けた黒崎博監督(52)=写真・岡山市出身=は「唯一の被爆国である日本が加害者になっていた可能性もある。広島の人がその事実をどう感じるか知りたい」と語る。(木原由維)

 舞台は1944年。戦争が最終局面を迎える中、京都帝大の物理学研究室では海軍の密命を受け、石村修(柳楽優弥)ら学生が原爆開発の実験に没頭する毎日を送っていた。次第に戦局が悪化し、「8月6日」が訪れる。

 黒崎監督が着想したのは10年前。仕事で立ち寄った広島市の図書館で、原爆投下直後の広島で調査した京都帝大の研究者たちの日記の断片を見つけた。読み解くうち、原子力を利用した「新型爆弾」の研究にのめり込む若者たちの姿が目に浮かんできた。「被爆国である日本も原爆開発を急いでいたと知り、衝撃だった」

 映画はフィクションの中に史実が見え隠れする。黒崎監督は当時を知る京都帝大の研究者ら約100人を取材。2019年夏から秋にかけて広島や京都、滋賀などでロケした。「事実の重みを映像に残す」ことに最も心を砕いたという。原爆資料館からは、被爆直後の広島を捉えた写真を特別に借り受け、最新の映像技術を駆使してがれきの街を再現した。

 終盤、原爆投下後の広島を訪ねた修たちが、焦土と化した光景に打ちのめされるシーンがある。黒崎監督は「若者たちは、原爆がもたらす運命に恐怖しつつも将来への希望を信じ、精いっぱい生きた。今を生きる人々の心にも強く響くはず」と力を込める。

(2021年12月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ