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独、核禁条約会議オブザーバー参加 「核共有」維持でも意義 ハンブルク大のマイヤー主任研究員に聞く

 核兵器禁止条約(TPNW)の第1回締約国会議が来年3月、オーストリアで開かれる。日本を含め、核抑止政策を持つ国が背を向ける中、ドイツでは次期連立政権がオブザーバー参加を政策合意に盛り込んだ。欧州の軍縮・不拡散問題に詳しいハンブルク大平和研究・安全保障政策研究所のオリバー・マイヤー主任研究員にオンラインで現状を聞いた。(金崎由美)

  ―広島ではドイツの動きが大きく報道されました。
 3党連立を組む社会民主党(SPD)と緑の党は軍縮に熱心だ。建設的な形で条約に関わる意思を表した。ただドイツは、欧米の「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)加盟国。条約批准はしないがオブザーバー参加はする、と明確にした。政策合意については、核兵器の搭載任務を持つ戦闘機を更新する方針の方がより大きく報じられた。

  ―ドイツには、米軍の短距離の戦術核B61が「核共有」としてビューヒェル基地に配備されています。オブザーバー参加を語りながら、搭載機の調達を決めたことに違和感を覚えます。
 政策合意に明記はしているものの、表現は曖昧だ。ベーアボック次期外相は先日、まず「通常戦力として次期戦闘機の調達が必要」と語った上で、核任務に関しては今後議論するとした。発言を過度に解釈せず、推移を注視したい。

  ―クリミア併合などを巡りロシアとの関係が悪化する中で、欧州の戦術核の役割は何でしょうか。
 米ソ冷戦の遺物だが、推定で約100発が6カ所に配備されている。軍事同盟をつなぐ象徴とも言われるが、疑問。危険であり、長期的には撤去すべきだ。しかしドイツ単独で決められないのも現実だ。

  ―撤去しなければ条約に加盟できないのでは。


 仮に撤去できても、NATOが「核同盟」である限り、事実上不可能。それでもオブザーバー参加に意義はある。多国間主義と核軍縮の強化に貢献できる。国内的には、どう核兵器への依存を減らしていくかを議論したり、機密に満ちたNATOの核兵器に関して透明性を求めたりする機会になる。民主主義国家にとって重要なことだ。

 欧州のオブザーバーはこれで5カ国。やはりNATOに加盟するノルウェーの動きは大きかった。しかし米国など同盟国から圧力を受けており、ドイツもそうなるだろう。フランスによる非難は特に強硬だ。非生産的であり、来年1月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の場も、対立を一層深刻化させかねない。

  ―米国の「核の傘」を安全保障上不可欠とする日本は、オブザーバー参加に否定的な一方、核保有国と非保有国の「橋渡し」役を自任しています。
 オブザーバーの国々は条約に当面加盟しないだろう。出席によって条約署名への義務が生じるわけでもない。「橋渡し」は、橋の両側に自ら出向いて議論してこそ、可能なはず。被爆国にしかない役割を担うことができる。

核共有
 冷戦時代、ソ連に対抗するためNATO加盟の非核保有国が米国の核兵器を領土内に配備し、搭載用の戦闘機を用意するなどして共同運用を目指した政策。

(2021年12月6日朝刊掲載)

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