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社説・コラム

社説 米軍機タンク投棄 人命軽視 容認できない

 一歩間違えれば、大惨事になりかねなかった。米軍三沢基地(青森県三沢市)に所属するF16戦闘機が先月末、飛行中にトラブルを起こし、燃料タンク2個を上空から地上に投棄した。

 一つは同県の深浦町役場近くの国道付近で見つかった。民家からは20メートル余りしか離れていなかった。そばにはJRの線路が走り、住宅街も近かった。

 「ドーンというごう音とともに、竜巻に遭ったように家が揺れた」。現場近くの住民が衝撃の大きさを語っている。恐怖はいかばかりだったろうか。

 もう一つは1個目の現場から数百メートル離れた山中で発見された。いずれも米軍が当初説明していた弘前市などにまたがる「岩木山付近の非居住地域」とは異なる地点だった。

 住民や建物に被害が出なかったのは、単なる偶然と言うしかない。どのように地上の安全を確認し、投棄に踏み切ったのか。米軍はF16全機の運用を直ちに停止し、徹底的に経緯や原因を究明しなければならない。

 F16は訓練に向かう途中、エンジンの油圧が下がる警告が表示され、機体を軽くするため燃料タンクを切り離したという。

 三沢基地のF16は3年前にもエンジン火災を起こして基地近くの小川原湖で、シジミ漁をしていた漁船近くに燃料タンクを投棄した。機体や安全管理に何らかの欠陥があるのではないか。整備不良の可能性もある。

 青森県の三村申吾知事は、謝罪に訪れた三沢基地の副司令官に強く抗議した。防衛省は安全が確認されるまでは国内でのF16の飛行を見合わせるよう米軍に要請した。

 ところが、米軍は何の説明もないまま、投棄から2日後にF16の飛行訓練を再開した。人命軽視の体質が甚だしい。事態の深刻さをどう認識しているのだろうか。住民感情を逆なでし、不信感を増幅するだけだ。

 中国地方には米軍岩国基地(岩国市)があり、各地から低空を飛ぶ米軍機の目撃情報が相次ぐ。人ごととして済ませられない。被害や事故のリスクを直視する必要がある。

 米軍機を巡っては、輸送機オスプレイが6月には山形空港、9月には仙台空港に緊急着陸した。益田市の萩・石見空港にも10月、米軍岩国基地の戦闘機F35Bの2機が緊急着陸した。沖縄でも8月にオスプレイがパネル部品を落下させ、先月には住宅の玄関先に水筒を落とした。

 政府は、米軍機の事故のたびに抗議し、米側は「原因究明と再発防止」を約束する。しかし一向に改善されず、同じような事故が繰り返されている。

 背景にあるのは米軍に幅広い特権を認めた日米地位協定だ。特例法で日本の航空法が米軍機には適用されない。事故調査も日本側が独自に行えず、米側が権限を独占している。

 今回も、米軍機は青森空港に着陸後、滑走路に8時間近くとどまったが、日本側は機体に触れることができなかった。米側の対応を待つ間、空港は閉鎖され、民間機が欠航した。燃料タンクの残骸も米軍が回収した。

 住民が危険性を訴えても、米軍機の飛行を止められず、事故原因の究明さえできない。これで住民の安全や平穏な生活を守れるだろうか。政府は、地位協定の抜本的な見直しを米国に求めるべきだ。

(2021年12月5日朝刊掲載)

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