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遺品 無言の証人

[無言の証人] 焼け焦げたシャツ

13歳 建物疎開中に熱線

 胸や腕などの部分の大半が焼け焦げ、原形をとどめないほど引き裂かれている。このシャツを着ていた旧制広島市立中(現基町高)1年の六岡(むつおか)由朗さん=当時(13)=は、建物疎開の作業中、爆心地から約900メートルの小網町(中区)で熱線を浴びた。

 爆心地から約2キロの福島町(西区)に自宅があり、爆風で全壊。六岡さんの両親は、自宅から頭の骨が見えるほど大けがを負った祖母を抱え、近くの堤防まで逃げた。母シカヨさんが自宅へ戻ると、帰ってきた六岡さんの姿があった。目はつぶれ、全身焼けただれていた。「私を見るなり両手を合わせて拝んだ」という。

 やけどをした人に水を飲ませると死ぬ、と言われていた。あまりに水を欲しがる息子にシカヨさんは「生き延びられないだろう」と、近くのポンプからの水を飲ませた。翌朝、六岡さんは息絶えた。

 兄の幸路さんは、原爆投下の前日に弟とささいなことでけんかをして、あの日の朝は口をきかないまま別れていた。幸路さんは2001年の中国新聞の取材に「動かなくなった弟の横に寝転び、星空を眺めた」と振り返った。(新山京子)

(2021年12月6日朝刊掲載)

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