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ヘイトスピーチ許さない 社会の意識醸成が鍵に 禁止条例制定目指す市民ネット発足

 広島市でヘイトスピーチ禁止条例の制定を目指す市民ネットワークが4日、発足した。近年、インターネット上で出身国や地域、民族などを理由とした差別的言説が横行する中、自治体に罰則規定のある具体的な対応を求める。一方、憲法が定める「表現の自由」との兼ね合いで、法規制に慎重な専門家もいる。地域社会の意識の醸成と判断が今後の鍵となりそうだ。(高本友子)

 ネットワークには在日外国人の支援団体など30団体と72人が加盟。4日、西区で開いた結成集会では障害者や外国人へのヘイトデモに抗議する市民たちが登壇し、「差別をしない、ではなく差別とは闘わないといけない」などと語った。

 2016年にはヘイトスピーチ対策法が施行され、差別は許されない行為と明記された。ただインターネットや会員制交流サイト(SNS)では今も差別的な言葉が飛び交う。ネットワークはこの点も問題視する。

 例えば、14年の広島土砂災害後にはSNSに、外国人が被災地で窃盗をしたとするデマが流れた。ネット上の質問サイトでは、広島市内の特定地区を被差別部落地区とする書き込みが長年放置されてきたという。

 結成集会で講演した、東京弁護士会の師岡康子弁護士も「マイノリティーはネット上の差別的言動の恐怖の中で暮らしている」と強調する。

 ヘイトスピーチに刑事罰を科す自治体も出てきた。川崎市は20年に差別禁止条例を施行した。以降、同市では街頭で禁止規定に明確に違反する差別発言はほとんどなくなり、師岡弁護士は「画期的」と評価する。一方で、同条例はネット上のヘイトスピーチに罰則規定はなく、「ネット上の差別的言動も禁止にするべきだ」と述べる。

 一方、専修大の山田健太教授(言論法)は「法規制は最後の手段。行政が恣意(しい)的に運用する恐れがある」とする。川崎市の条例は繰り返されるヘイトデモに対抗した市民運動の結果だとし、「まずは広島市での差別の実態調査が必要。その上で条例が必要かどうか、市民社会が吟味する必要がある」と話す。

 県内で関連条例制定の動きには濃淡がある。福山市は9月、「市人権尊重のまちづくり条例」を施行。一方、広島市は条例を具体的には検討していない。

 ネットワークの事務局を担う、NPO法人共生フォーラムひろしま(西区)の李周鎬(リチュホ)理事長(71)は、「条例制定の働きかけには多くの市民の力が必要。草の根の運動を広げたい」と訴える。

ヘイトスピーチ
 特定の人種や民族、国籍、出身地、宗教などの属性を持つ者に対して差別したり、憎悪をあおったりする言動。2016年施行のヘイトスピーチ対策法では、差別的言動を「許されない」と明記。憲法で保障する表現の自由を侵害する恐れがあるとして、禁止規定や罰則はない。川崎市では、20年に全国初の刑事罰を盛り込んだ差別禁止条例を施行。差別的言動を具体的に定義し、違反者には段階的に「勧告」「命令」をし、従わなければ名前を公表して同時に刑事告発する。勧告や命令、公表の際に審査会の意見を聞き、勧告や命令の効力は6カ月とする。

(2021年12月6日朝刊掲載)

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