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社説・コラム

天風録 『「橋渡し」は無理筋?』

 もしや、あきらめの境地なのだろうか。きのうの臨時国会で自身2度目の所信表明に臨んだ岸田文雄首相である。核兵器のない世界を目指すくだりで、2カ月前の演説にあった「唯一の戦争被爆国」の文言を今回は口にしなかった▲被爆地広島選出の政治家として、核兵器廃絶をライフワークに掲げてきた。いまさら被爆国なんて言わずもがなと考えても不思議ではなさそう。それはさておくとして、核兵器を持つ国と持たない国の「橋渡し」という言葉も消えたのは一体なぜ?▲代わりに、各国の「信頼と協力」を得て「現実的な」取り組みを進めるという。世界最大の核兵器保有国と同盟関係を結ぶ限り、しょせん橋渡し役なんて無理筋だと自覚したのならば、残念だが合点はいく▲いやそれは違うとドイツから反論が聞こえそう。同じく米国の同盟国でありながら、今週発足する中道左派の連立政権は、核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加する方針を打ち出した。橋渡し役にぴったり▲きのうの岸田首相は前回同様、この条約にも触れずじまい。予想されていたとはいえ、残念でならない。次の通常国会での施政方針演説で、ぜひとも「三度目の正直」を。

(2021年12月7日朝刊掲載)

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