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オミクロン株「最悪」想定 電子接種証明20日開始 首相所信表明

新資本主義 地方が主役

 第207臨時国会が6日召集され、岸田文雄首相(広島1区)は衆院本会議で所信表明演説を行った。新型コロナウイルス「オミクロン株」の感染拡大に対応するため「最悪の事態」を想定し、危機管理への決意を示した。マイナンバーカードを使い、スマートフォンによるワクチン接種の電子証明書発行を20日から始めると表明。首相の経済政策「新しい資本主義」はコロナ収束後、地方を主役に進めると掲げた。憲法改正に向けて国会議論を通じた世論喚起も訴えた。(樋口浩二)

 新たな変異株のオミクロン株は「多くの国でも確認されるなどのリスクが生じている」と指摘。ワクチンの効果を見極めた上で3回目接種を「8カ月を待たずにできる限り前倒しする」と述べた。無料のPCR検査を拡充。飲み薬の年内の薬事承認も目指す。

 経済社会活動の再開は「楽観的になることなく、慎重に状況を見極める」と強調。感染が再拡大した場合には「行動制限の強化を含め、機動的に対応する」との考えを示した。

 コロナ禍の先には成長も分配も実現する「新しい資本主義」の具体化を進めると力説。3年程度で全国どこにいても高速大容量のデジタルサービスを使えるようにし、人口減少や高齢化、産業空洞化など地方の課題を解消すると打ち出した。マイナンバーカードを活用したワクチン接種証明書の発行などで「国民にデジタル社会のメリットを実感してもらう」とした。

 分配政策では賃上げ税制を強化するほか、「若者世代・子育て家庭」の所得増を目指し、女性就労の制約となっている制度の見直しや社会保障の負担増の抑制に取り組むとした。

 被爆地選出の首相として掲げる「核兵器のない世界」に向け、核兵器保有国と非保有国が核軍縮を探る来年1月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で成果を上げる意義を強調。「米国をはじめ関係国と連携しながら積極的な役割を果たしていく」と述べた。

 外交・安全保障では「敵基地攻撃能力」も含め、あらゆる選択肢を排除せずに検討。新たな国家安全保障戦略や防衛大綱、中期防衛力整備計画をおおむね1年かけてまとめるとした。

 改憲については「国会議員には憲法の在り方に真剣に向き合う責務がある」と国会の議論に期待感を表明。同時に「国会議員が広く国民の議論を喚起していこう」と呼び掛けた。

首相所信表明【解説】「 信頼と共感」得たか 数字列挙に生真面目さ

 良くも悪くも岸田文雄首相らしい所信表明演説だった。新型コロナウイルス対策で「事業者支援に17兆円」、デジタル化推進や気候変動問題対応に「20兆円規模の財政資金を投入」などと具体的な数字を列挙。生真面目さがうかがえる。

 コロナ変異株のオミクロン株対策で外国人の新規入国を停止したと、まず訴えた。「大事なのは最悪の事態を想定すること」「状況が十分に分からないのに慎重すぎるのではないか、との批判は私が全て負う覚悟だ」と言い添えたのは、後手後手との批判があった菅義偉前首相を反面教師にしてのことだろう。

 4日で発足2カ月が過ぎた岸田政権。内閣支持率の上向き傾向に気をよくしてか、演説は約8900文字に及んだ。就任時の所信表明より約2千字増えたが、肝心なのは首相がよく用いる「信頼と共感」が国民の胸に芽生えたかどうかだ。

 億や兆の単位が並ぶ経済対策の大半は国債発行で賄う。将来世代へのつけ回しをこれ以上増やすべきではない。「経済をしっかり立て直す。そして財政健全化に取り組む」。この発言だけでは問題先送りだとの批判は免れまい。

 同じことは過疎や少子高齢化にあえぐ地方対策にも言える。技術革新でドローン宅配や遠隔医療が進むと訴えたが、便利さを身近に実感できるのはいつのことか。「デジタル万能」という過信は避けるべきだ。

 外交・安全保障を巡っては「敵基地攻撃能力」の検討に言及。改憲への意欲を示したことと併せて保守強硬派へのメッセージとみられる。

 一方で、ライフワークとする「核兵器のない世界」への実現は「核兵器国と非核兵器国との信頼と協力の上に現実的な取り組みを進める」と従来通りの発言に終始した。「現実的な」という予防線を張らずに、被爆地選出の首相として情熱や理念を語ってほしい。(下久保聖司)

(2021年12月7日朝刊掲載)

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