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被爆電車654号 風雨で傷み 広島市交通科学館に展示

 広島電鉄の現存する被爆電車4両のうちの1両で、引退後に広島市交通科学館(安佐南区)の屋外広場に展示してある「654号」が、風雨にさらされ傷んでいる。市は修理を検討しているが、以前に構想のあった屋根の設置は見送る考えだ。(馬場洋太)

 654号は、市の要望を受けて、広電が2006年に寄贈した。市は07年に車体を塗り直したが、現在は塗膜が浮いたりはがれたりし、露出した鉄板がさびた箇所もある。来館者から傷みを心配する声が寄せられることもあるという。

 小規模な補修は、06年から同館の指定管理を請け負う広島高速交通(安佐南区)が担当してきた。雨漏りの応急処置や部分的な塗装などをしてきたが、昨年度は補修をしていない。今春着任した矢野大介館長は「維持管理が行き届いていないという思いはある」と認める。同館からの報告を受け、市は早ければ本年度内にも、塗膜をはがして再塗装する方針でいる。腐食した木製の窓枠の交換などの修理も計画する。耐久性にすぐれた塗料を重ね塗りするなど、劣化を遅らせる手法も検討している。

 車体の脇には、寄贈時の広電の助言を受け、屋根を支える柱4本分の基礎が既に用意してあるが、屋根の設置については、関係者で見解が分かれる。

 市は「屋根は最後の手段に近い」として選択肢に入れていない。江崎一博・文化財担当課長は「劣化するのは普通のことだ。症状は重くない」とみる。一方、科学館の矢野館長は「市が考えることだが、屋根はあった方がよい」と話す。

 寄贈した広電電車カンパニーの藤元秀樹プレジデントは「普段から手をかけていれば屋根がなくてもよいが、かなり傷みが進んでいる。きれいな状態で見てほしい」と話す。

 広島の復興の歩みに詳しい広島諸事・地域再生研究所(中区)の石丸紀興代表(72)は「被爆後の市民生活を支えた役割を評価する意味でも屋根を設け、軒下で現役時の映像を流すなど展示を充実させてはどうか」と提案。「市だけで決めず、意見を募って緩やかに答えを見つけてほしい」と話している。

広島電鉄の被爆電車
 現存するのは、1942年製の「650形」4両。原爆で半焼や大破、小破したが翌年までに復帰し、市民を勇気づけたとされる。2006年に引退した653は車庫で保管、654は広島市交通科学館で展示。651、652の2両は今も現役で、平和学習にも活用されている。

(2013年9月8日朝刊掲載)

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