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社説・コラム

社説 五輪外交ボイコット 人権懸念 中国は認識を

 中国政府による人権や自由の抑圧を、これ以上野放しにできない。そう考えた米国の決断だろう。習近平政権は、重く受け止める必要がある。

 バイデン米政権は、来年2~3月の北京五輪・パラリンピックに政府代表を派遣しない「外交ボイコット」に踏み切る。新疆ウイグル自治区での人権侵害や、香港での民主派弾圧に抗議するためだと説明している。

 選手団は参加するため、競技には影響しない。国際オリンピック委員会(IOC)は「各政府の純粋な政治的決定だ」として全面的に尊重する構えだ。

 背景には、バイデン大統領の与党である民主党をはじめ、党派を超えた対中国強硬論の高まりがある。少数民族ウイグル族弾圧はジェノサイド(民族大量虐殺)だとして、選手団派遣も認めない全面ボイコットを支持する声まで聞こえてくる。

 強硬姿勢は、有力紙ワシントン・ポストの社説からも、うかがえる。「ひどい虐待の数々は豪華な競技会場や聖火によって覆い隠されるべきでない」などと主張しているほどだ。

 米国の決断に早速、同盟国のオーストラリアが追随した。前向きな英国なども含め、賛同の動きが広がりそうだ。

 欧州連合(EU)は、米国より早く動いていた。中国がウイグルや香港での人権状況を改善しない限り、北京五輪への政府代表らの招待辞退を加盟国などに求める決議を、欧州議会は7月に賛成多数で採択していた。

 中国では先月、女子テニス選手の「失踪」事件も起きた。元副首相との不倫関係の告白直後に動静が途絶えた。当局は、無事な様子を示す動画を公開した。しかし自由を束縛され、監視下に置かれているのではないか、との疑念は拭えていない。

 外交ボイコットによって、中国の人権抑圧をどれほど改めさせられるか、実効性への疑問もあろう。経済面を含めた中国との関係悪化を恐れて、米国の強硬姿勢とは距離を置く国も少なくあるまい。それでも、人権侵害を許さない姿勢を示すのは今や国際的潮流と言えよう。

 日本の対応について、岸田文雄首相は「国益の観点から独自に判断する」と述べた。やみくもな米国追随では、中国との対立が深まり、経済的痛手を負いかねない。米中の板挟みに陥らないよう、影響を慎重に見極めた上での判断を求めたい。

 当の中国は、スポーツを政治問題化するものだと反発。「断固とした対抗措置をとる」という。追随する国が増えないよう神経をとがらせているようだ。習政権の長期化を目指し、北京五輪で弾みをつけて5年に1度の共産党大会に臨む思惑があるからではないか。それこそ、スポーツの政治利用だろう。

 ウイグル族弾圧について、中国政府は否定している。ならば、すぐ国際機関による現地調査を受け入れるべきである。実態を見せずに「デマ」だと言い張っても説得力はない。

 五輪という「平和の祭典」の在り方も問われている。IOCは、女子テニス選手の問題で、幕引きを図りたい中国政府に同調したように動いて批判を浴びた。「選手ファースト」を掲げているが、商業主義に毒されてはいないか。IOCが、大国やスポンサーへの忖度(そんたく)を改めぬ限り、理想の実現は程遠い。

(2021年12月9日朝刊掲載)

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