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連載・特集

広島世界平和ミッション 中国編 歴史を見つめて <6> 海亀 違い踏まえ相互理解を

 ハルビン発南京行き。メンバーが搭乗した百数十席の機内は平日というのに満席だった。国内総生産(GDP)は既に世界六位にあり、今年の伸びも二けた台に迫る。

覆う無力感■

 メンバー最年少の東京大三年森上翔太さん(20)=廿日市市出身=は、座席に着くなりうたた寝を始めた。中国九日目。旅の疲れに加え、半ば無力感が全身を覆っていた。

 「歴史から『八月六日』だけを切り取って伝えるのは、無理な話だと分かった」。日本の侵略から歴史認識まで、出会った人たちが口をとがらせた事柄を反すうした。同時に、中国の核兵器は自衛のためだとの主張には違和感がうずいていた。

 「自国の利益のみに立つ論理。核兵器で世界はどうなったのか。その原点がヒロシマだし、聞いて、知っていいと思う」。気を持ち直すうち機首が傾いた。ハルビンから二時間二十分。メンバーは夜になっても蒸し暑い南京に降り立った。

 ここでも地元の省政府外事弁公室の出迎えを受けた。外弁室は海外からの訪問客を担当する。江蘇省は福岡県と、省都の南京は名古屋市と友好提携を結んでいる。

 メンバーが翌日に訪ねた南京大学で、張異賓副学長(48)は「日本との交流を重視しています」と、三年前に設立した日本の現代思想や大衆文化も扱う中日文化研究所の活動を盛んに紹介した。

 大学も日本との交流を強調するのは、長江でつながる上海と比べ、日本からの企業立地が思うようにない状況がある。

 「日本側が進出に二の足を踏んでいると…」。そうした問い掛けに、社会学部の賀暁星副教授(42)が答えた。広島大と大学院を含めて十一年間留学し、博士号を得て一九九三年に戻った。

 「南京大虐殺があったという歴史的な要因からではない」としながらも、陝西省の大学で日本人留学生のひわいな寸劇から昨年起きた学生・市民の抗議行動を挙げ、相互理解の必要性を説いた。

 「ささいなことからあれほどの騒ぎになった背景には、侵略を否定する日本の政治家の妄言がある。一方、中国側は政治家が日本のすべてを代表していると勘違いしている」と苦笑を浮かべた。そのうえで最近、政府が修学旅行先に日本行きを認めたと紹介し、「日本人と接し、本当の姿を知るいい機会になるだろう」と期待を寄せた。

まだ力なし■

 メンバーの岳迅飛さん(32)=東広島市=が「民間交流に助言があれば」と広島大大学院の先輩に問うと、「罪の意識が薄い日本の文化や国民性を理解して交流した方が、有効的だと思う」。お互いの過剰な見方を戒めた。

 中日文化研究所の彭曦副教授(40)は、東京外国語大大学院で博士号を得て、一昨年に「冷戦後の日本政治」を著した。「自衛隊の海外派遣、有事法制…被爆地の訴えは国内で孤立しているのでは」と述べ、メンバーに日本の行く末をどうみているかと鋭く尋ねた。

 留学して戻った人たちは、亀の産卵にたとえられ「海亀」とも呼ばれる。中央政府でも五十歳以下の世代は、米国帰りが重要なポストに就く。

 賀副教授は、陝西省の騒ぎをめぐる報道を振り返り、日本を知る留学経験者から意見表明が全くなかった、と残念がった。自身、講義でヒロシマに触れたことはない。

 「日本に理解を示す考えは受け入れられないというか、日本留学組はまだ勢力になっていないといえます」。苦笑いは少し寂しげでもあった。

(2004年7月31日朝刊掲載)

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