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社説・コラム

社説 スーチー氏に「禁錮刑」 不当な裁判 即時解放を

 ミャンマー国軍の特別法廷が民主化運動指導者のアウンサンスーチー氏に「禁錮4年」を言い渡した。2月のクーデター後に国軍がスーチー氏を軟禁した上、恣意(しい)的な裁判を続けていることは到底容認できない。

 国軍トップは判決後、恩赦で2年に減刑するとしたが、国際社会に対するポーズだろう。スーチー氏は6件の汚職に加え、国家機密漏えいなどの疑いでも訴追された。全て有罪の場合、合計で最高100年を超す禁錮刑が科される恐れがある。

 裁判は非公開で、弁護士にかん口令が敷かれるなど、公正さを欠く形で進んだという。スーチー氏は全て無罪を訴えていて上訴も可能だというが、そもそも裁判の体をなしていない。欧米諸国や国連人権高等弁務官などが強く非難するのも当然である。76歳のスーチー氏や国民民主同盟(NLD)の幹部を、国軍は直ちに解放すべきだ。

 国軍は昨年11月の総選挙でNLDに大規模な不正があったとして非常事態を宣言、NLD政権を転覆させた。憲法にのっとった措置だと主張し、クーデターを正当化している。抗議デモは各地で頻発したが、徹底的に弾圧し、ミャンマーの人権団体によるとクーデター後の弾圧の死者は1300人を超す。

 国軍は非常事態宣言終了後の2023年8月までに再選挙を行うと表明しているが、これまた軍政の印象を薄めるポーズではないか。5日には国軍の車両がデモ隊に突っ込み、死傷者を出すなど、強硬姿勢は変わっていない。治安維持の域を超えてテロ行為といえるだろう。

 国軍の強硬姿勢を背景に国民の間の分断は進んでいる。民主派の一部が「国民防衛隊」と称して国軍関係者や行政官を襲撃する事件も多発しており、和解への道は遠のくばかりだ。

 クーデター後は海外資本の投資控えなどからミャンマー経済は悪化し、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけている。日本のキリンホールディングスは国軍系企業との合弁を解消し、現地での事業継続を目指すために国際仲裁を申し立てたが、国軍系が裁定に従うかどうかは分からない。かたくなな姿勢では雇用さえ守れないことを国軍は知るべきだろう。

 とはいえ国際社会も混乱の収拾に決め手を欠く。ミャンマーが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)は条件が合わないため、10月末の首脳会議への国軍の参加を拒んだが、議長国カンボジアの首相は独自に国軍トップと近く会談する。事態打開への動きではあるが、クーデターを正当化する懸念もあり、他のASEAN諸国と十分擦り合わせるべきではないか。

 日本も国軍には批判的なトーンでありながら、民主派の挙国一致政府(NUG)から求められた承認要請にも応じていないようだ。ミャンマーに対する新規の政府開発援助(ODA)は見送っており、国軍は再開への期待感を表明してはいるが、現状では到底応じられまい。

 ノーベル平和賞受賞者でもあるスーチー氏の身の安全の確保と解放が全ての前提ではないか。ASEANが求めてきたASEAN特使とスーチー氏との面会の実現から、突破口を開くことに大方の異論はあるまい。日本も強い意志を持って外交努力を傾けるべきだ。

(2021年12月10日朝刊掲載)

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