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連載・特集

突入 湯崎県政4期目 <7> 観光振興

外国人客減 打撃色濃く

コロナ後視野 商品開発

 「問い合わせが増えて、ちょうどここからという時だった」。広島市中区でウェブサイト制作会社を経営する石岡史裕さん(41)は、2019年末から世界で猛威を振るう新型コロナウイルスを恨めしがる。

 日本を訪れる外国人観光客を狙った無料情報誌の発行(年2回)を17年春に始めた。19年にあった地域情報誌の全国コンテストで、大賞を獲得。飲食店からの掲載依頼が増え始めた中でコロナ禍となり、20年春から休刊状態となっている。

 ただ、切り替えは早かった。拡大したネット通販に商機を見いだし、サイト制作へ事業の軸足を移した。20、21年の売上高は、19年比で6~7割の水準で持ちこたえているという。「場当たり的に対応していたらやばかった」と振り返る。

 コロナ禍の前まで、広島県内の外国人観光客数は急増していた。県観光連盟(中区)によると19年に276万人となり、8年連続で最多を更新。県は17年にまとめた「ひろしま観光立県推進基本計画」で、20年に450万人、22年に600万人と見込んだ。だが20年の実績は40万2千人と、19年比で85%減った。官民への影響は計り知れない。

埠頭岸壁を改良

 県は海外の富裕層の船旅需要を当て込み、大型クルーズ船を誘致、接岸できるよう15年3月に広島港五日市地区(佐伯区)の五日市埠頭(ふとう)の岸壁を2億4千万円かけて改良した。広島港宇品地区(南区)の宇品外貿埠頭(1万トンバース)では岸壁を110メートル延ばして390メートルにする事業に16億7千万円を投じ、22年秋の完成を目指している。

 国内外の旅客船の広島港への寄港数は19年度に過去最多の57回に達したが、20年度と21年度(11月時点)はいずれも日本客船の2回のみだった。県港湾振興課は「海外のクルーズ船の受け入れを再開するめどは立っていない」と説明する。

 県は19年に作った港湾計画で、20年代末に寄港数100回を目指すと掲げた。しかし、20年10月にまとめた21年度から10年間の総合計画では、数値目標の設定を見送った。岸壁の整備効果を生かせる状況にない。

 旅客船の激減は通訳ガイド業を直撃した。国家資格の全国通訳案内士でつくるひろしま通訳・ガイド協会(中区、約230人)は、数千人規模の旅客船が寄港するたびに30人近くを派遣してきた。ガイドの件数は19年に過去最多の約3200件に達したが、20年は約90件にとどまった。

 国内客を取り込めるホテルや旅行会社と違い、通訳ガイドは外国人頼み。ガイド講座の講師や、ワクチン接種会場での外国人対応の仕事を受けるが、コロナ前の収入の水準にははるかに及ばないという。協会の今田裕子事務局長(58)は「もう2年弱、予約とキャンセルが繰り返されてきた。これ以上続けば、通訳ガイドの人材がいなくなりかねない」と危機感を抱く。

 県は総合計画で「観光が県経済を支える産業の一つ」とあるべき姿を描く。広島修道大の伊藤敏安教授(公共政策)は、観光需要の高まりは世界的な潮流と指摘。国際会議や見本市、イベントの開催を含めて「集客産業」と捉え、「雇用をもたらし、地域のイメージを向上させる。地域経済に欠かせない」と説く。

 国内外の観光客が県内での宿泊や飲食、入場料に使った観光消費額は19年に4410億円で、09年の2876億円と比べて1・5倍に拡大した。20年は2745億円に減ったが、それでも09年と同水準にある。

立案の段階から

 県はコロナ後を視野に、広島を憧れさせる観光メニューの開発に力を入れる。関連事業に助成金を出すだけでなく、立案段階から支援する。県観光課は「多種多様な商品を作り、また訪れたいと思ってもらえる県をつくりたい」とする。

 コロナ禍で産業としての弱点が浮き彫りになった観光業。湯崎英彦知事にとって観光振興は、初当選した09年の知事選のマニフェスト(公約集)で「瀬戸内・海の道1兆円構想」を掲げるなど、一貫して力を入れてきた分野だ。順風がやんだ今だからこそ、4期目の湯崎県政の真価が見えてくる。(宮野史康)=おわり

(2021年12月11日朝刊掲載)

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