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社説・コラム

社説 ウクライナ緊迫化 衝突回避へ対話継続を

 ウクライナ情勢が緊迫化している。隣国ロシアが秋以降、国境地帯に10万人規模の部隊を展開し、米欧は「近く侵攻に踏み切る恐れがある」と警戒を強めている。

 バイデン米大統領は、ロシアのプーチン大統領とテレビ電話で会談し、深い懸念を伝えた。ウクライナに侵攻すれば、欧州の同盟国と協調してロシア経済に深刻な打撃を与える措置で対抗すると警告した。

 プーチン氏は、米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の方がウクライナなどロシア国境周辺で軍事力を増強していると反発した。2時間にわたる協議は平行線に終わったが、担当者が継続して協議することで一致した。

 最も懸念されるのは2014年のクリミア危機のような軍事衝突が再び繰り返されることだ。ロシアが軍を侵攻させ、ウクライナ南部のクリミア半島を一方的に占領した。

 最悪の事態は回避しなければならない。ロシアは緊張を高める軍事行動を直ちにやめるべきだ。両首脳の主張の隔たりは大きいが、対話を継続して事態を沈静化しなければならない。

 ロシアが緊張を高めている背景には、ウクライナが親欧路線を強め、NATOへの加盟を目指していることがある。

 ロシアにとってウクライナは旧ソ連の構成国の一つであり、歴史的にも民族的にも一体性の強い自国勢力圏とみなしている。しかも欧州連合(EU)とロシアに挟まれた位置にある。それだけにウクライナが欧米と軍事的な関係を強めることを看過できないのだろう。

 首脳会談で、プーチン氏はウクライナ情勢の緊張緩和のため、NATOの東方不拡大や、ロシアに隣接する国々へ攻撃兵器を配備しないよう「信頼できる法的な保証」を要求した。

 中でも、ウクライナ問題を安全保障上の最大の懸念とし、米欧が超えてはならない「レッドライン」と主張している。今回の派兵増強を圧力に、ロシアが要求している「法的な保証」などを米欧に認めさせようとする狙いが透ける。

 1991年のソ連崩壊後、NATOが東欧諸国や旧ソ連のバルト3国などを次々に加盟させ、拡大してきたことにプーチン氏は強い不満を示している。国力が落ちた時期に、自国の勢力圏を一方的に奪われたとの被害者意識があるのだろう。

 だからといって軍事力を用いて隣国を威嚇するような行為は認められない。安全保障上の懸念があるなら外交的な努力で解決の糸口を探るのが筋だ。

 そもそも周辺国のロシア離れを招いたのは、プーチン氏のあからさまな強権政治にあるのではないか。脅威や恐怖を感じなければ、NATOに加わる理由はないはずだ。

 ロシアの要求には、バイデン政権は応じそうにない。同盟国などと足並みをそろえて、軍事と経済の両面から圧力をかける構えだ。だが、政権が最優先課題と位置づけるのは対中国政策で、ウクライナ情勢への積極関与は重荷になる。それを避けるためにも、外交努力によって事態収拾を図る必要がある。

 ロシアもこのままでは国際社会でさらに孤立すると認識すべきだ。対話を絶やさず相互信頼を培う努力が求められる。

(2021年12月12日朝刊掲載)

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