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社説・コラム

社説 防衛費補正予算案 なし崩し膨張 許されぬ

 政府の2021年度補正予算案に防衛費7738億円が計上された。補正額では過去最大だった19年度の2倍近い規模だ。

 当初予算は既に過去最大になっている。これに補正予算が認められれば総額6兆円を超え、国内総生産(GDP)比1・09%に膨らむという。GDP比1%という枠を歴代政権は意識してきた。今これを超える特段の理由が何かあるのだろうか。

 12年末の第2次安倍政権の発足以降、防衛費増額が続いている。いたずらに軍備拡大に走れば周辺国を刺激し、際限のない軍拡競争に陥りかねない。なし崩しの増額は許されない。

 防衛省は、中国や北朝鮮の軍事力増強に対抗するための補正だと説明している。迎撃ミサイル441億円、哨戒機3機658億円など、22年度当初予算の概算要求に上げた主要装備品の調達を前倒し計上した。メーカーへの前払いもするという。

 主要装備品は本来、当初予算で手当てすべきものだ。財政法が補正予算を組む要件とする「特に緊要」な状況とは思えない。当初予算から前倒しする理由も見当たらない。

 当初予算に比べ国会の審議時間が短い補正予算に計上する手法は、いかがなものか。1%枠を超える既成事実づくりのために補正予算で対応したとすれば、許されるものではない。

 「戦争する国造りの道を急速に歩んでいるのではないか」。今国会

で問われた岸田文雄首相は「金額ありきではなく、必要なものを計上していく」と述べるにとどまった。  これでは国民の疑念は拭えず、不十分な答弁と言わざるを得ない。1%枠をおおむね維持してきた重みを首相はしっかり受け止めるべきではないか。

 今回の補正予算案を編成した主眼は、新型コロナ禍で疲弊した国民生活を立て直す経済対策だったはずだ。

 「自衛隊の安定的な運用体制の確保」を理由に、ミサイル装備拡充などを進めることが果たして経済対策だろうか。政権の実績として補正予算額の規模を重視し、前倒しで計上したとすれば本末転倒の話だろう。

 補正予算に前倒しすれば22年度当初予算から減額するのが当然だ。しかし米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)は、予算額を定めない「事項要求」として既に組み込んでいる。額も、従来の水準から上積みされる見通しだ。概算要求にない経費を新たに加え、防衛費が膨らむことはあってはならない。

 バイデン米大統領は10月上旬の岸田首相との電話会談で日本の防衛費増額方針に期待を示した。そうした意向をくんだ補正予算なのだろうが、米国に追随するだけでは国民の理解は得られないと政府は認識すべきだ。

 「敵基地攻撃能力」へ転用可能な防衛装備品の調達も気がかりだ。国内から他国に攻撃可能な装備は、憲法でうたう専守防衛を逸脱する恐れがある。膨れ上がる防衛費から、こうした費用を削減することも必要だ。

 米国と中国の対立が深まり、北朝鮮は着々と核兵器・ミサイル開発を進めている。日本が防衛力を増強したからといって、地域に平和や安定がもたらされるわけではない。取り組むべきは専守防衛を堅持し、外交努力を重ねることだ。岸田首相は、それを忘れてはならない。

(2021年12月14日朝刊掲載)

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