×

ニュース

終戦前の暮らし アニメで 片渕監督「毎日に意味」伝えたい

 第2次世界大戦末期の広島、呉を舞台にしたアニメ映画「この世界の片隅に」の製作が進んでいる。手掛けるのは、アニメーション映画監督の片渕須直さん(53)。広島市東区の比治山大短期大学部での講演のため、広島を訪れた片渕監督に、作品に込める思いなどを聞いた。

 原作は、西区出身の漫画家こうの史代さん(44)の同名漫画。広島市江波から軍港都市、呉へ嫁いだ女性が主人公。物資が乏しい中でやりくりする暮らしぶりや、空襲や原爆で大切な人を奪われながらも、続いていく日々の営みを紡ぐ物語だ。

 昭和30年代の防府市を舞台に、子どもたちの姿を描いた代表作「マイマイ新子と千年の魔法」など、生活感を細やかに醸し出す作風が特徴の片渕監督。戦時中の市民生活を淡々と追っていく原作に共感し、映像化への意欲が湧いたという。

 片渕監督は「毎日には全て意味がある。そんなことを伝える映画にしたい」と語る。製作の準備を始めて、しばらくして東日本大震災が起きた。日々の暮らしの尊さを考えさせられ、その思いはより強くなった。

 講演では、映画を作る上で特に力を注いでいる資料収集にも触れた。映画化に向け、呉市史や当時の婦人雑誌などを集め、読み込んでいる。「当時の世界を、作り手が実感として受け止めた上で表現したい」と説明する。

 映画の中では、当時の広島や呉の景観もできるだけ忠実に描き出すつもりだ。平和記念公園(中区)のレストハウスなど、現存する建物も交える。「見た人が、今ある建物や景色から過去の街並みを想像する。そんな体験もしてほしい。現実の世界とつながる映画にしたい」と願う。

 映画の公開は、被爆70年となる2015年を目指している。(石井雄一)

かたぶち・すなお
 60年、大阪府枚方市生まれ。日本大芸術学部卒。在学中から、宮崎駿監督の作品に脚本家として参加。アニメ映画「魔女の宅急便」の演出補などを務める。テレビアニメ「名犬ラッシー」で監督デビュー。代表作の一つに、昭和30年代の防府市を舞台にしたアニメ映画「マイマイ新子と千年の魔法」がある。東京都在住。

(2013年9月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ