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連載・特集

広島世界平和ミッション 韓国編 過去、今、未来 <2> 日韓の被爆証言 民族超えて核廃絶願う

 「被爆者とは何か、と聞かれるくらい被爆のことは知られていません」。元韓国原爆被害者協会長の郭貴勲さん(80)は、韓国における現状を日本語で他のメンバーに解説し、瑞山市にある韓瑞大学での証言に臨んだ。

 証言は、メンバーの一人、井下春子さん(72)=広島市南区=が、広島大大学院で学んだ旧知の韓瑞大学の金泰燾副教授(47)に働き掛け実現した。田園に囲まれるキャンパスは夏休みとあってひっそりしていた。金副教授が教える日本語学科や、国際関係学科の学生十二人と教員らが参加した。

 最初に、福島和男さん(72)=同市佐伯区=が、両親ら家族六人を奪った被爆の体験を語った。また「原爆投下は日本の侵略のせいと言われた。実際、日本軍の被害者に会って胸を痛めた」と中国の旅での対話に触れた。「私の話から平和の尊さを知っていただき、日韓も仲良くすることを心から願う」と呼びかけた。

 郭さんは、日本軍に徴兵されて広島へ送られ、爆心地から二キロの屋外で閃光(せんこう)を受けて戻った事実から説き起こした。在韓被爆者が強いられた思いが、母国語でせきを切ったようにあふれた。

国も無関心■

 「日本の被爆者には援護が始まってもわれわれにはない。韓国政府も無関心だ。二重、三重の苦しみが続いた」。日本政府を相手に原告となり、在外被爆者への手当支給を一昨年に認めさせた喜びを語りながらも、「援護を受けるには日本に行って手続きをしなくてはならない」と、なお残る問題点を挙げた。

 韓国で二千百九十九人が確認されている生存被爆者の平均年齢は、日本国内より高い七十代後半になっているとみられる。

 参加者からは、忌憚(きたん)のない質問が発せられた。日本の植民地支配を記憶する趙甲東語学研修院長(68)が、口火を切った。

 「原爆が使われて私たちは解放された」と韓国での一般的な原爆観を披歴し、「韓国と日本の被爆者では立場が違うのでは」と疑問をぶつけた。

 郭さんは「原爆は二度と使ってはならないとの信念に差はない」と声を強めた。福島さんは「過去について共通の認識を持ち、核兵器を地球からなくしていきたい」と話した。民族、歴史の違いを超えて、二人は被爆者の願いを言葉に表した。

 日本の今を問う学生の意見はさらに厳しかった。「原爆に遭ったのに米国への追随は矛盾している」「平和をいう前に過去を清算すべきだ」

強い「反米」■

 国際関係論を学ぶ森上翔太さん(20)=廿日市市出身=は、前日に見学した独立記念館を挙げて「日本の教科書にはないことを学んだ」と率直に明かし、「被害を与えた歴史にも目を向け、一緒に未来に向かっていきたい」と求めた。中国出身の岳迅飛さん(32)=東広島市=は北朝鮮の核開発をずばり尋ねた。「同じ民族としてどう思う?」

 日本語、英語もこなす女子学生の李草緑さん(21)は「北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)を脱退したけれど、核の脅威は米国と比べ心配する必要はないと思う」と言いきった。盧武鉉政権を生み、同大統領への弾劾を覆した韓国の若い世代に強い「反米」「親北朝鮮」の現れなのか。郭さんが鋭く切り返した。

 「独裁者の危険性はもとより、核兵器そのものが人類を脅かしている」

 朝から始まった対話は昼食時間をとうにすぎていた。「核のない世界をどうつくっていくのか。その方策はざっくばらんに、論理的に意見を交わすことから始まるのではないか」。金副教授がまとめた。

(2004年8月14日朝刊掲載)

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