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連載・特集

広島世界平和ミッション 韓国編 過去、今、未来 <5> 善隣の友 不適切な発言 友好の壁

 政府部門が集まるソウル郊外の果川市。国史編纂委の李萬烈委員長(66)は、国旗の太極旗と書画を掲げる自室で物腰柔らかく一行を迎え、日韓の認識の溝に切り込んだ。

難しい和解■

 「日本は、植民地支配の問題を解決したと思っているが、大きな間違いです」。独立運動の弾圧から徴用・徴兵と民族が強いられた犠牲を列挙する口調は険しかった。

 国交正常化を告げた一九六五年の日韓基本条約で両政府は、日本が無償・有償五億ドルなどを供与し、個人の請求権放棄を取り決めた。朴正煕政権は、民衆の激しい抗議を力で抑えつけ、日本からの投資もテコに経済成長を遂げた。来年、批准四十周年となる政府間の条約が禍根なのか―。

 日韓両政府が一昨年に設けた「歴史共同研究委員会」のメンバーでもある李委員長は、「本当の意味での謝罪と個人への補償がない。国民の恨みは消えません」と言い切った。

 慢性的な対日貿易赤字の構図も条約から始まったとみる。共同委で向き合う日本側の歴史家には「政治家顔負けの暴言をはく者がいる」とも非難し、「日韓の和解は難しい」と結論づけた。

 その場で第二陣メンバーの井下春子さん(72)はあえて通訳に徹した。韓国の軍事政権が続いていた八〇年代前半、ソウルの延世大に留学して韓国語を修めた。隣国を「日本の延長」でみるのではなく、まず相手の胸のうちを聞くのが韓国を知る第一歩。そうした考えから今回、さまざまな分野の人とメンバーとの対話づくりの場に腐心した。

 光州では、前代議士の金敬天さん(62)に会った。支持した金大中前大統領が表明し、盧武鉉政権も引き継ぐ日本との「未来志向」を問うと、「国民感情になってない」と切り捨てた。島根県沖の竹島、韓国名では「独島」の領有権を指摘する日本政府の姿勢を軍国主義の復活にもなぞらえた。

 元福岡総領事の除賢燮さん(60)は、メンバーが宿泊したソウル市庁舎前のホテルを訪れた。政府の外交通商部を退職したばかりである。

 除さんは九四年に「日本はある」(邦訳「日本の底力」)を著し、日本を「韓国の運命的同伴者」といち早く位置付けた。大衆感情に響きやすいメディアの「あら探し式の日本論」を戒めた。

 結果、韓国ではマイナスイメージの強い「親日家」と批判されたという。通算十年の駐日勤務で磨いた日本語で、善隣への願いから日本へ注文を寄せた。

 「大統領が未来志向を言っても、日本の一部の政治家どころか国民の中からも、先の戦争はアジアを解放したといった不適切な発言が繰り返される。信頼を阻むし、真の友好につながりません」

アジア軽視■

 日本政府の核軍縮にもやんわり疑念を呈した。「韓国、中国に聞こえるほど米国には注文をしませんね」。何度も訪れた広島・長崎両市にもアジア軽視のまなざしを感じたという。

 米国でのホームステイの経験がある森上翔太さん(20)が「原爆投下は悪いと言うほど米国民は耳を傾けない。それより核の恐ろしさを伝える方が大事なのでは」とメモを取る手を休めて尋ねた。

 釜山の大学に続いて、九月からは九州大学でも教える除さんは「日本が米国一辺倒では、アジアの平和構築は難しいと思います」と答えた。

 「冬のソナタ」ブームの日本と対照的に、韓国では三月、植民地時代についての「親日反民族行為真相究明特別法」が成立した。三年間かけて調査する。隣人は日本が過去をどう見て、行動するかを注視している。

(2004年8月17日朝刊掲載)

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