×

連載・特集

広島世界平和ミッション 韓国編 過去、今、未来 <6> 「和解」はなるか 歴史見つめる対話 カギ

 「率直に話し合いたい。まず、原爆投下についてどう考えているか」

 ソウル東大門区にある東国大付属高校での「韓日の歴史認識」をめぐる対話は、ミッションメンバーである元校長の郭貴勲さん(80)の呼びかけで始まった。同校は仏教系の男子校で、生徒数は約千五百人。学校からは歴史の授業を担当する男女各二人の教師、学期末試験を終えた三人の生徒の計七人が出席した。李香桂教諭部長(54)が応じた。

 「原爆で日本は降伏し、国の解放につながった」と韓国の世論ともいえる見解を述べ、さらに個人的な考えではと続けた。「多くの非戦闘員を殺した点など、原爆の力を知る米軍の実験だったとも思う」。もっとも授業でそうした考えを教えることはないという。

 李部長が政府発行の歴史教科書を見せた。通訳した井下春子さん(72)が繰った。近・現代史のページは、日本の植民地支配への抵抗、犠牲、解放の喜び、南北分断により百万人以上の死者が出た一九五〇年の韓国動乱(朝鮮戦争)の悲劇と続く。韓国人も犠牲になった原爆の記述は一行も載っていなかった。

「核」に賛成■

 二十代、三十代の教師は「日本への原爆が悪い、良いを判断する材料がない」と関心がない様子。議論に身を乗り出したのは、郭さんの「北朝鮮の核開発をどう思うか」との問い掛けからだ。

 「開発に賛成する。国を守るためだし、米国をはじめいろんな国が持っているのに、北朝鮮だけが持てないのは不公平」。李恩政教諭(24)が、ごく自然な口調で言った。

 国際関係論を大学で学ぶ森上翔太さん(20)が、「他の国が持っているから自国もという考えは、世界の安全と利益を損なう」と反論した。

 それに対し、李教諭は「もしイラクが核を持っていれば、米国は好き勝手にできなかったはず」と言い、超大国・米国への不信も表した。同僚の朴昌信教諭(36)は「日本は北朝鮮を仮想敵国とするのをやめ、北東アジアの平和のために行動するべきだ」と主張した。

 「核は常に使われる危険性がある」。郭さんが語気を強める傍らで、広島からの被爆者福島和男さん(72)は「そうなのか…」と、午前中の話を思い起こしていた。

 ソウルにある北朝鮮人権情報センターの尹汝常代表(37)が「若い世代は北朝鮮に核があっても構わないとの意識が強い」とメンバーに話したのだ。なぜなら「統一後には自国のものとなり、日米の干渉を排除できる」との考えから。各種の世論調査からもそうした姿勢が表れているという。

 生徒代表で出た三年生の宋財〓さん(18)は、大阪で一年間学んだという日本語で級友らの意見を通訳した。「日本が過去を率直に認めれば、壁はなくなると思う」。自分も同じ意見だと答えた。

 李部長は「日本が謝るべき事柄と同時に、韓日共存の大切さも教えている。お互いに引っ越しはできません」と冗談も飛ばして、締めくくった。

侵略の責任■

 ヒロシマは戦争の悲劇と核時代の始まりを象徴する。しかし、第二陣が旅した中国、続いての韓国では、そうは受け止められなかった。人類を脅かす核兵器の実態を伝えると、侵略や植民地支配の責任を問う声がブーメランのように返ってきた。メンバー最年少の森上さんは旅の感想文をこう結んだ。「ヒロシマが鳴らすべきは(私たち)自らに対する警笛であると感じた」

 原爆投下に至るまでの日本の過去を、心を開いて見つめる。通い合える言葉をつむぎ、対話を重ねることこそが、「和解」と未来の平和をつくるはずだ。(文 編集委員・西本雅実、写真 荒木肇)=韓国編おわり

(2004年8月18日朝刊掲載)

年別アーカイブ