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社説・コラム

『潮流』 永田町・霞が関という壁

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 先週、米国の保守系シンクタンクが主催するオンライン講演会を視聴した。テーマはバイデン米政権が検討する核兵器の「先制不使用」政策。安倍晋三政権で外相と防衛相を務めた自民党の河野太郎広報本部長が登壇し、「中国や北朝鮮に誤ったメッセージを送りかねない」と懸念を表した。

 地上から発射する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の更新を支持する河野氏の発言に、頭を抱えた。偶発的な使用の恐れにペリー元米国防長官らが警鐘を鳴らし、なくそうと提案している兵器だ。司会者は満足げに何度もうなずいていた。

 非人道兵器の「傘」を求める被爆国は、こうやって米国内の核の増強を是とする人たちに「同盟国が不安になれば独自に核武装も」などと主張する根拠を与えてきたのだろう。その2日後、バイデン政権は新たな核戦略指針(NPR)に「先制不使用」を盛り込まない方向だと英紙が報じた。

 オバマ政権がNPRを策定した2010年前後を思い出す。麻生太郎政権時の日本が、海上で発射する核巡航ミサイルの退役に反対し、小型核の開発を求めていたことが明らかになっていた。既に政権交代後で、「核の傘」を重んじながら先制不使用には前向きな岡田克也氏が外相だった。

 岡田氏は回顧録「外交をひらく―核軍縮・密約問題の現場で」にクリントン国務長官に宛てた書簡を収録している。「私が特定の装備体系を貴国が保有すべきか否かについて述べたことはない」。先制不使用は見送られた一方、ミサイルの退役はNPRに記された。

 おとといの衆院予算委員会で岡田氏は「核兵器を使用していない国に対して核を先に使って、と米国に求めるというのか」とただした。岸田文雄首相の答弁は「一般論」に終始した。被爆地が訴え続けてきた核兵器廃絶には、永田町と霞が関という壁が依然ある。

(2021年12月16日朝刊掲載)

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