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被災の子 甲状腺検診200人 ヒロシマの医師 フクシマの役に 

 広島市南区で甲状腺クリニックを開業する武市宣雄さん(69)は福島第1原発事故後、福島県など被災地の子どもの甲状腺検診を無料で続けている。診察した子どもは200人を超えた。被爆者や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故での被災者を長年診てきた経験を基に、「ヒロシマの医師としてフクシマの被災者の役に立ちたい」と力を注ぐ。(鈴中直美)

 2011年末に無料検診を始めた。首を触診や超音波診断装置(エコー)などで調べる。通常なら6千~7千円の自己負担が必要になる。

 ことし8月末までに、福島や宮城、関東地方などで被災した0~20歳の201人が、被災地や避難先からクリニックに訪れた。これまで甲状腺がんは見つかっていないという。

 福島県は県民健康管理調査で、震災当時18歳以下の約36万人を対象に甲状腺を調べ、これまでに18人が甲状腺がんと診断された。放射線との因果関係は解明されていないが、知識が少なく不安を抱えた家族は多い。

 福島県郡山市の酒井純子さん(36)は8月中旬、夏休みに広島のボランティアに招かれた機会を利用し、長男希空(まそら)君(10)を連れて、武市さんのクリニックを訪ねた。福島県の県民健康管理調査では、2次検査の必要はないと判定された。「専門医にも診てもらったが、『大丈夫』と言うだけで十分な説明がなく、安心できなかった」と振り返る。武市さんに会い、「気掛かりなことにしっかり答えてもらった。がんの恐れはない状態だとよく分かった」と話す。

 武市さんはチェルノブイリ原発事故の後、現地の汚染地や旧ソ連の核実験場だったカザフスタンなどを度々訪ね、検診や手術、医師の指導に努めてきた。

 甲状腺の手術をした患者は、11年までの10年間で千人に達した。武市さんは「チェルノブイリでは事故の4年後から子どもの甲状腺がんが増えた。放射性ヨウ素の放出量が福島よりずっと多いチェルノブイリとは事情が違うが、長期的に見守っていきたい」と話している。

甲状腺がん
 甲状腺は喉にあり、食べ物をエネルギーに換える甲状腺ホルモンを分泌する。子どもの成長には特に重要。原発事故で放出された放射性ヨウ素は、体内に入ると甲状腺にたまりやすくがんを引き起こす可能性がある。早期発見で適切な治療や摘出手術を受ければ死亡する危険性は低い。

(2013年9月13日朝刊掲載)

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