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連載・特集

広島世界平和ミッション フランス編 崩れぬ神話 <5> 胎動 核廃絶へ市を挙げ行動

 パリから高速列車TGVと各駅停車の列車を乗り継ぎ、約三時間半。第三陣メンバーは、人口二万八千人の小さな町、サントに向かった。地元市民がメンバーを招いて企画した反核行事に参加するためだ。

 「お待ちしてました。世界から核兵器をなくすために、あなた方の力を借りたいのです」。駅で出迎えてくれたジャンマリー・マターニュさん(60)が握手を求めながら言った。主催団体「核軍縮のための市民行動」(ACDN)の代表である。

 マターニュさんらは十月、サント市で核兵器廃絶のための国際会議を開く。欧州を中心に七百の反核平和団体が結集する予定だ。そこでメンバーの訪仏に合わせ、会議に向けた「核兵器廃絶集中キャンペーン」の出発式をすることになった。

  市民と行進■

 市役所訪問、マスコミ取材などに応じた後、平和行進のスタート地点の裁判所前の広場へ。くしくもそこには、第二次世界大戦の戦死者たちの慰霊碑がそびえていた。

 「二度と第二次大戦のような無残な戦争は繰り返さない。核兵器の使用が戦争を早く終わらせたという考え方の間違いも伝えていきたい」。マターニュさんは参加者を前に訴え、被爆者の細川浩史さん(76)と石原智子さん(58)に核兵器廃絶を誓うトーチを手渡した。

 「核兵器で国が守られると思っている人が多いフランスで、こんなふうに廃絶を願って行動してくれる町があるのは勇気づけられます」。石原さんはトーチを握り締め、歴史を刻む建物が並ぶ市中心部をメンバーやサント市民と行進した。

 ACDNは、マターニュさんらが中心になって一九九六年に発足。「フランス国民にとって核兵器は実感の伴わない抽象的なものでしかない」という彼は「それだけに当初は孤立無援だった」と振り返る。

 結成間もなく、核兵器の是否を問う住民投票を提唱して、署名活動や機関誌の発行などで地道に運動を続け、市民に関心を持ってもらえるように努めてきた。

 二〇〇〇年にはサント市に働きかけ、フランスで初めて自治体として国際反核ネットワーク「アボリション2000」に加盟。国内の非政府組織(NGO)と行政との連携も強まり、今年のキャンペーンにつながった。

 「重大な問題でありながら、国民は誰もフランスの核について触れてこなかった。地道な活動を通じて国民に気づかせていかないと。今日の取り組みも重要な一つ」とマターニュさんは、夜の集会の司会も務めた。

 原爆の威力などを示すパネルが展示された会場の市文化会館。細川さんと石原さんが、集まった四十人を前に被爆体験を語った。

 証言聞き涙■

 「一番安全なはずの母親のおなかにいた私も、被爆者と呼ばれるようになりました」。石原さんの証言に市民は聞き入った。広島から持参の原爆被災写真に驚き、涙する人もいた。

 そんな姿に石原さんはつくづく思った。「核兵器廃絶に熱心なサントの市民でさえ、人間が受けた原爆被害を知らない。ヒロシマはまだまだ伝わっていない」と。

 同時に自分の課題も見つけた。原爆被害の実状を人間の問題として伝えるために、被爆者の手記を活用できないか。フランス語の音読テープを作り、送ってあげられないだろうか。「市を挙げて廃絶に取り組む小さな町から、核兵器が人類に及ぼす影響を核保有国に広めていけたら…」

 石原さんは帰国後、早速、手記を集め始めている。

(2004年9月17日朝刊掲載)

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