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「原爆の図」搬出 23年修復 埼玉・丸木美術館

 被爆直後の広島を画家の故丸木位里、俊夫妻が描いた「原爆の図」の第1部「幽霊」が16日、初の本格的な修復に向け、埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館から搬出された。愛知県立芸術大文化財保存修復研究所(長久手市)に送り、2023年3月の完了を見込む。

 「幽霊」は縦1・8メートル、横7・2メートルの水墨画。被爆直後、衣服は燃え落ち、皮膚が垂れ下がったまま腕を上げて幽霊のようにさまよう群像を描いた。1950年の発表当初は8枚のパネル張りだったが、掛け軸を経て80年代に4曲一双のびょうぶに表装。71年が経過する中で、染みや虫食いが発生し、びょうぶの木枠が反るなどの劣化が見られていた。25年に予定する美術館の改築を踏まえ、修復を決めた。

 この日は美術館スタッフ3人が作品を折り畳み、専用箱に収めて搬出した。研究所に到着後、びょうぶを解体して絵の材質分析や傷んだ部分の調査を行い、具体的な修復方法を決める。寄付金の積み立てから約400万円を充てる。修復中は複製画を展示する。

 広島市安佐北区出身で水墨画家の位里は原爆投下の3日後、家族の安否確認のため市内に入り、洋画家の俊も1週間後に合流。救護活動を手伝うなどした体験を基に、82年までに全15部を発表した。長崎市の原爆資料館が所蔵する第15部「長崎」を除く14部が美術館に収められている。

 岡村幸宣学芸員(47)は「時代を超えて、少しでも長く実物を見てもらいたい」と意義を説く。残る13作品の修復に向けて、美術館は引き続き寄付を呼び掛けている。(桑原正敏)

(2021年12月17日朝刊掲載)

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