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連載・特集

広島世界平和ミッション フランス編 崩れぬ神話 <6> 継承 被爆地へ若者派遣計画

 フランス滞在も終わりに近づいた土曜の午後、ミッション第三陣の一行はパリ市北部にある労働会館で、全国各地から集まった「フランス平和運動」の会員約二十人と会った。

 この日の集いの目的は、二〇〇五年の被爆六十周年に向け、フランスの若者を広島・長崎両市に派遣する取り組みについて協議するためだった。

 「フランス人の多くは核兵器の怖さを知らない。現地で直接ヒロシマに触れることは、机上で学ぶのとは全く違う。特に若い人たちにその体験をさせたい」。マルセイユから参加の共同議長ピエール・ビラルドさん(40)は、日本の平和団体の招きで昨年被爆地を訪ねた経験を踏まえ、訪問の意義を熱っぽく説いた。

薄れる関心■

 「フランス平和運動」は、第二次世界大戦後間もなく仏共産党の支持者らによって生まれた。しかし、今ではどの政党からも完全に独立。国内に百二十五支部を持つ反核・平和市民団体として活動を続けている。

 第三陣メンバーは、フランス国民の多くがなお「核抑止力」支持者であることにショックを受けた。が、先のサント市民との平和交流など勇気づけられることもあった。とりわけ彼らは「ヒロシマ・ナガサキの体験」を伝えることの重要性を強調した。

 社会福祉士の山田裕基さん(27)が素朴な疑問を投げ掛けた。「みなさんの反核・平和の取り組みがなぜ、政府の政策に反映されたり、広がりを見せないのですか」と。

 副議長のローランド・ニベさん(55)が、眼鏡の奥の大きな目を山田さんに向けて答えた。

 「一九九五年にシラク大統領が南太平洋のポリネシアで核実験を再開したときは、五十万人が反対デモに参加して大きな盛り上がりをみせた。でも翌年、核実験を中止すると人々の関心は薄れていった」

 会では支部ごとに反核集会を開くなどして地域住民らに核の脅威を伝えてきた。最近では特に若者への教育に力を注ぐ。その一つが政府の認定を受け、学校での平和教育プログラムを作成し、メンバーを講師として派遣する取り組みだ。

ぜひ広島で■

 「若い世代は核をめぐる事実を知らない。原爆被害や自国が新しい核開発に乗り出していることなど情報をきちんと提供すれば必ず反応し、そこから世論も変わっていくだろう」とニベさん。被爆地への若者派遣も、インターネットなどによる若者同士の体験共有の波及効果を狙う。

 被爆五十九周年は記念日に合わせ「下準備」としてビラルドさんが、交流会に参加していた大学三年のフランソワ・ガニエールさん(21)を伴って広島を訪れるという。

 「ぜひ、広島で」。山田さんや筑波大一年の花房加奈さん(19)が握手で再会を約束した。

    ◇

 第三陣メンバーは七月末、英国、スペインを巡って帰国した。その一週間後、ビラルドさんとガニエールさんの姿が広島にあった。六日には山田さんたちメンバーと一緒に平和記念式典に参列し、原爆慰霊碑に花を手向けた。ガニエールさんは、初訪問の印象を神妙な表情で語った。

 「原爆資料館では原爆の破壊力や放射線の影響に大きなショックを受けた。でも、広島に来て核廃絶が理想ではなくて実現できるとの希望が持てた。来年はたくさんの仲間が来られるように努めたい」

 「そのとき広島の自分の母校で若者同士の交流ができれば…」。花房さんは今後も一緒に活動することを提案した。山田さんも「こうした身近な交流から、平和の輪を広げていきたい」と気負わず言った。(文・森田裕美 写真・田中慎二)=フランス編おわり

(2004年9月18日朝刊掲載)

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