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連載・特集

広島世界平和ミッション 英国編 市民の力 <1> NGO

反戦運動 みなぎる活気

 フランスでの活動を終えた広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)の第三陣メンバー五人は、西欧のもう一つの核保有国、英国に渡った。米国とともにアフガニスタンやイラクへの「対テロ戦争」に参加。その一方で、市民や自治体の反核・平和運動では、イラク反戦の世界統一行動や非核自治体宣言のように国際社会に大きな影響を与えるリーダー的存在でもある。メンバーは英国市民との対話を通じ、被爆地の役割を再認識した。(文・森田裕美 写真・田中慎二)

 ロンドン市街にある非政府組織(NGO)「核軍縮キャンペーン」(CND)の本部事務所。玄関の鉄製ドアに描かれたハトの足に似たロゴの「ピースマーク」は今、反核・平和のシンボルとして世界に知られる。

 「さあ上がって」。ウガンダ出身のスタッフ、サム・アカキさん(42)がメンバーを二階の事務所に案内した。

政府に圧力■

 CNDは一九五八年に設立された反核運動団体。全英に十八の地方支部があり、会員は四万五千人。英国の核政策や同盟関係にある米軍との軍事行動、武器輸出などについて秘密を暴いたり、抗議行動を繰り広げてきた。出版物の発行や平和教育を通じて啓発活動にも力を入れる。昨年二月にあったロンドンでの百五十万人規模のイラク反戦デモでは、主催者の一翼を担った。

 十人ほどの専門スタッフが業務を分担する。アカキさんの担当は議会など政治家への働きかけだ。内紛が続くウガンダから六二年に政治亡命。四年前にCNDに加わった。「戦争で人間が傷つくのをたくさん見てきた。何とかその防止に役立ちたい」。参加の動機を打ち明ける。

原点に被爆■

 説明に聞き入るメンバーに、アカキさんはCNDへの入会を募るチラシを示して言った。「私たちの活動の源は、実はあなたたちの被爆体験なんですよ。ほら、ここに…」。指さした英文にはこう記されていた。

 「一九四五年、一個の原爆が広島に投下され十四万人が死んだ。今日、三万個の核弾頭が世界中に配備され、その多くは攻撃即応態勢にある。生き残れると思う?」

 現実の核情勢は厳しい。だが、米ソ冷戦終結を境に十万人いた会員は半減。市民活動が盛んな英国でも核問題への関心は薄れていった。

 アカキさんは、イラク反戦で高まった人々の関心を核の問題にまでつなげたいと願う。とりわけ英国の若い世代に「今こそ広島・長崎の教訓を知らせ、その意義を考えてほしい」と力を込めた。

 そんな若者たちが数人、別の部屋の一角に集っていた。自己紹介を終えると、高校生のロバート・ホワイトウエイさん(16)が言った。「ぼくが生まれ育った時代は冷戦は終わっていたんだ。でもイラク戦争で核兵器が本当に使われるかもしれないと危険を実感した」

 イラク戦争がミッション参加への大きな動機だった社会福祉士の山田裕基さん(27)が「同じ思いだ」と応えた。

 アカキさんはCND本部での説明を終えると、与党労働党の下院議員らに「ヒロシマの声」を届けるため一行を国会へ案内した。交流後は全英から集まった平和活動家の会議へ…。彼が準備した平和交流は夜まで続いた。

 山田さんはその勢いに圧倒された。「市民活動になぜこれほどエネルギーがあるのか。その土壌をもっと知りたい」。体の疲労とは逆に、心は高揚していた。

(2004年10月2日朝刊掲載)

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