×

社説・コラム

『郷土の本』 「証言 紙屋町を創った男」 広島そごう出店 躍進と再編回顧

 1974年の広島そごう開店に尽力し、80~90年代の10年間に店長を務めた柚﨑博さん(88)=広島市西区=が自伝「証言 紙屋町を創った男」を刊行した。母親の死をきっかけにそごうの広島進出を誓い、候補地の選定から地元の理解獲得までの奮闘ぶりを紹介。バブル崩壊後に広島そごうがたどった変遷も、自ら詠んだ俳句とともにつづった。

 柚﨑さんは西区己斐地区で生まれ、57年にそごう大阪店に入社した。本書は自身の生い立ちに始まり、景気悪化によるそごうグループ再編を見届けた2000年代までを全8章で振り返る。

 「広島そごう開設へ」の章では、69年に母の急逝で抱いた無念が、広島進出への思いを突き動かしたと述懐。当時の社長に直談判して開設準備室設置にこぎつけ、「広島の人にとって誇れるものをつくる」と自身に言い聞かせながら広島の街を奔走したと明かす。

 グループは80年代のバブル景気で拡大路線を進め、広島そごうも躍進を遂げる。だがバブルは崩壊し、グループは00年に巨額負債を抱え経営破綻した。柚﨑さんはバブルを「人間の我欲が生み出した、束(つか)の間のドリームと悪夢」と表現。「落日や 金波銀波の 大夕焼」との一句に気持ちを込めた。

 己斐国民学校(現己斐小)時代に経験した集団疎開生活や、原爆投下から約1カ月後に広島へ帰った際に見たがれきの光景なども記している。

 ガリバープロダクツ。1650円。(木原由維)

(2021年12月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ