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社説・コラム

社説 NPT会議と岸田首相 核保有国の「怠慢」正せ

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が1月4日、米ニューヨークの国連本部で始まる。5年に1度開かれるが、新型コロナウイルス禍で、昨年春の予定が再三延期されていた。

 核軍縮と不拡散の進み具合を点検するため、核兵器を持つ国と持たない国が1カ月近くも話し合う場は、他にはない。核兵器を違法とする核兵器禁止条約が今年1月に発効してからでは初めての開催となる。

 核保有国は全て、禁止条約に背を向けている。それだけに、米国やロシア、中国など五つの主だった保有国が参加するNPT再検討会議は、重みを増していると言えよう。

 2015年に開かれた前回の会議以降、核兵器を巡る状況は悪化している。目立つのは、保有国の怠慢や身勝手さだ。

 トランプ前米大統領は「使える核」と位置付けた小型核兵器の開発を進めた。核軍縮への道を開き、画期的といわれたロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約を失効に追いやった。

 ロシアと中国は核兵器の威力増強に熱を上げる。英国も今年春、核弾頭保有数の上限引き上げ方針を明らかにした。

 いずれの国も、自国の利益にのみ目を向けて、人類の滅亡を招きかねない核軍拡を推し進めている。看過できない。

 再検討会議は、そうした保有国の姿勢を批判し、行動を正す場にしなければならない。その先頭に、原爆の惨禍を知る日本が立つべきである。「核なき世界」をライフワークとして掲げてきた岸田文雄首相にこそ、求められる役割ではないか。

 保有国は、NPTの第6条で核軍縮に誠実に取り組むよう義務づけられている。00年の再検討会議では「核廃絶の明確な約束」という合意まで交わしていた。にもかかわらず、果たそうとしないのは怠慢でしかない。

 会場となる国連本部では既に原爆展が始まっている。国連を訪れる人や会議の参加者に原爆被害の実態を知ってもらうため、今回は日本被団協と広島、長崎両市が共催した。

 核軍縮に関わる各国の政治家や担当者には、被爆証言を直接聴いてもらいたかった。きのこ雲の下で何が起きたのか、きちんと知ってもらうことが、核政策を考える出発点となるはずだからだ。しかし、それさえコロナ禍で、できなくなった。

 それどころか、現時点では国連本部への入場は政府代表と職員に限られるという。このため、日本被団協は05年から毎回続けてきた被爆者の代表団派遣を断念した。世界8千以上の都市が加盟する平和首長会議の会長、副会長を務める広島、長崎両市の市長も、参加を諦めざるを得なくなった。

 その分、日本政府の責任はさらに重くなった。岸田首相は林芳正外相と、被爆2世でもある広島県選出の衆院議員、寺田稔首相補佐官を派遣する考えだ。首相自身は会期中に訪米し、首脳会談に臨む意向だ。会議出席も模索するというが、もっと積極的に行動してもらいたい。

 バイデン米大統領をはじめ、保有国の代表に直接訴えるチャンスである。核兵器が存在する限り、地域は安定せず、人類の未来は脅かされると自分の言葉で説明を尽くすべきだ。そうしてこそ核なき世界への「橋渡し役」を果たすことにつながる。

(2021年12月20日朝刊掲載)

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