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「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」10年 デジタル化 次代へ着々 態勢づくりや資金面課題

 被爆者の証言や核兵器廃絶運動の記録を収集、発信するNPO法人「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」(東京)が、結成から10年を迎えた。日本被団協が所蔵する資料など2万点を2カ所の拠点で順次、整理している。「被爆者運動の資料は原爆被害に向き合って生きてきた歴史そのものだ。散逸させず、次代へ語り継ぎたい」と決意を新たにしている。

 ノーベル賞作家の大江健三郎さんや、広島の被爆者で被団協代表委員だった故岩佐幹三さんたちが発起人となり、2011年12月に発足した。全国の被爆者の体験記や書籍、核兵器の怖さを訴えて運動してきた被団協の書類などを収集。スキャナーを使って各種資料をデジタルアーカイブ化し、目録をホームページで公開している。

 東京都港区の事務所とさいたま市の資料庫で整理する。被団協が1984年に発表し運動の根幹となった「原爆被害者の基本要求」の素案も含まれる。「被爆者は声を振り絞らずにはいられません」との記述を「被爆者はもう、黙ってはいられません」と変えるなど、黒ボールペンで何度も推敲(すいこう)を重ねた跡がうかがえる。

 最近は資料を生かし、シンポジウムや展示活動に取り組む。今秋には昭和女子大(東京)の学生たちが被爆者運動の歩みをたどる展示会を開いた。学生たちは12年度から資料計6713点を整理する作業を手伝ってきた。同会事務局を務める栗原淑江さん(74)=東京都荒川区=は「資料整理を進めながら、同時に次代へ継承していくモデルケースとなった」と実感する。

 一方で膨大な資料にスタッフが足りず、分類・体系化が進んでいない。資料公開に先立ち、個人情報や著作権をチェックするための態勢づくりも課題だ。会設立当時に構想した資料閲覧施設「継承センター」は建設費や運営費に約6億円が必要と見込むが、候補地選定や資金面のめどは立ってない。

 同会は10周年を記念し今月11日、全国の被爆者組織とオンラインの討論集会を開き、継承の取り組みについて話し合った。同会の伊藤和久事務局長(74)=東京都国分寺市=は「証言や運動の資料を将来にどうつなぐかは市民に委ねられている。『あの日』だけではなく、その後の被爆者の人生を追うことで原爆被害の悲惨さが伝えられるはずだ」と訴える。(中川雅晴)

(2021年12月20日朝刊掲載)

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