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社説・コラム

[被爆75年 世界の報道を振り返る] 英国 原爆「間違い」が上回る

世論比率逆転 米と乖離

■広島市立大 井上泰浩教授

 米国より一足早く原爆開発を進めていたのが英国だ。米原爆開発に協働し、日本に対して使用することも米英元首の方針だった。そして現在、ジョンソン首相は核兵器の増強への転換を打ち出している。

 こうした背景があるものの、英国市民の態度は国の政策と乖離(かいり)がある。米世論は一貫して大半が原爆使用を正当化あるいは支持しているが、英国の世論は「間違い」と考える比率が「正しい」を逆転している。

 このことは筆者自身も英国人学生を相手にした授業で「体感」している。彼らは口々に「今ではほとんどの国民が原爆を否定している」と話す(独仏の学生も同様だ)。リベラル系の英紙による昨年夏の原爆75年報道でも、はっきりと傾向が出ていた。

 主要紙ガーディアンの原爆の日の報道では「この飛行機(エノラ・ゲイ)は第2次世界大戦を終結させ、何十万人もの命を救ったのか、それとも、核の恐怖の時代到来を告げた民間人の大量殺戮(さつりく)装置なのか」と切り出した。日本の降伏にはほとんど影響を与えていないことや、すでに打ちのめされていた日本に野蛮な兵器を使用した、という主張に焦点を当てた。

 さらに日曜版(長崎原爆の日)のオピニオン記事では、原爆使用は人種差別に駆られたものだと断じ、米国は戦争に勝ったため「戦争犯罪にならずに済んだ」という軍人のコメントさえ紹介している。

 原爆を激しく糾弾した報道はリベラル紙に偏っていたとはいえ、米国の新聞のように原爆を礼賛、もしくは正当化する報道は主要5紙を調べた限りなかった。米英の違いがここにある。

 ただ、保守系の新聞(タイムズ紙など)では、第2次大戦の元兵士の子や孫からの原爆使用を正当化する投稿が掲載された。また2005年には、原爆を「ほぼ間違いなく人類がこれまで犯した最も卑劣極まりない行為だ」と断じた記事を掲載した経済紙フィナンシャル・タイムズ(現在は日本経済新聞の傘下)は、当たり障りのない記事のみの掲載だった。全英の新聞論調が原爆批判に染まるまでには、まだ時間がかかりそうだ。(おわり)

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 この連載は「世界は広島をどう理解しているか 原爆七五年の五五か国・地域の報道」(中央公論新社)を執筆した広島市立大国際学部の研究者たちが寄稿しました。

(2021年12月20日朝刊掲載)

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