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被爆者を撮影 父の足跡たどる 故尾糠さん三男、似島訪問 検疫所跡地や桟橋巡る

 広島への原爆投下の翌日に似島(現広島市南区)で被爆者を撮影した故尾糠(おぬか)政美さんの三男清司さん(59)=川崎市=が19日、父の足跡をたどろうと、初めて似島を訪れた。多くの被爆者が運び込まれた陸軍検疫所の跡地などを巡り、「おやじが76年前にどんな地獄絵図を見たのか。自分で似島を歩き、断片的な知識が少しつながったように思う」と話した。(明知隼二)

 清司さんは、似島で歴史ガイドを務める宮崎佳都夫さん(73)の案内で島内を見学した。約1万人の被爆者が運び込まれ、現在は「似島臨海少年自然の家」となった検疫所の跡地のほか、被爆者を搬入した桟橋、犠牲者の火葬にも使われた焼却炉の遺構などにも足を運んだ。

 陸軍船舶司令部の写真班員だった尾糠さんは被爆翌日の1945年8月7日、検疫所に収容された負傷者を軍の命令で撮影。全身やけどの男性、背中一面を焼かれた女性など、被害の凄惨(せいさん)さをフィルムに刻んだ。その現場に接し、清司さんは「身が震えるような思いがしました。おやじがやっていたことに少しは近づけた気がします」と亡き父に思いを寄せた。

 清司さんは東京で学習塾を経営し、毎夏の塾報では尾糠さんが残した写真に触れ、戦争や平和について考えてもらうコラムを書いている。「同じ国で、ほんの数十年前にあった出来事なんだよと、子どもたちや保護者にあらためて伝えたい」と語った。

(2021年12月20日朝刊掲載)

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