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「黒い雨」救済拡大方針 「遭った可能性」で認定 厚労省 対象 1万人以上へ

 広島原爆の「黒い雨」の被害者救済を巡り、厚生労働省は本人の証言や文献から「雨に遭った可能性が否定できない」場合、被爆者と認める方針を固めたことが19日、分かった。証明の負担を減らし、より幅広い病気を対象に加えることで新たに1万人以上の認定につながるとみている。被爆者認定指針の改定は2022年4月を予定し、広島県と広島市に近く提案する。(樋口浩二)

 黒い雨被害を訴えた原告全84人を被爆者と認め、国が上告を断念して確定した今年7月の広島高裁判決や、原告と同じ事情にある人の救済を明記した菅義偉首相談話を重くみる一方、疾病要件は維持し、従来の認定との整合性も図ったといえる。

 厚労省の認定指針改定案は、本人の証言や文献などで黒い雨を一定時間浴びるなどした可能性が否定できない場合、現行の援護対象区域にいたかどうかにかかわらず「黒い雨に遭った」とみなす。

 広島県・市が高裁判決に基づいて要求する「病歴の有無にかかわらない認定」までは踏み込まないが、より幅広い病気を対象に加える方向だ。被爆者が月額3万4970円の健康管理手当を受ける要件として国が定めるがんなど11疾病に加え、原告の病歴を踏まえ白内障の手術歴を新たに要件とする案が浮上している。

 厚労省は指針改定に伴い医療費や健康管理手当など総額65億円前後の関連費用が必要とみて、編成作業が大詰めを迎えた22年度予算案に被爆者援護対策費の増額を盛り込む方向で最終調整している。

 こうした厚労省の提案を広島県・市がどう受け止めるかが焦点となる。広島高裁判決が出た7月以降、黒い雨被害を訴える広島県民から県・市への被爆者認定の申請が急増。既に計1300件を超えている。

黒い雨
 米国による広島への原爆投下直後に降った放射性物質や火災によるすすを含む雨。国は1976年、黒い雨が降った卵形のエリアのうち、爆心地から広島市北西部にかけての長さ約19キロ、幅約11キロを援護対象区域に指定した。国はこれまで、区域内で黒い雨を浴びた住民を対象に無料で健康診断を実施。がんや造血機能障害など国が定める11疾病のいずれかを発症した人に被爆者健康手帳を交付。医療費を原則無料にし、健康管理手当を支給するなどの援護策を講じてきた。

(2021年12月20日朝刊掲載)

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