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原爆症 基準外9人認定 東京高裁判決

■記者 岡田浩平

 原爆症の認定を国が却下したのは不当として東京都内の被爆者30人(うち14人は提訴後に死亡)が処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(稲田龍樹裁判長)は28日、新基準で認定されていない10人について一審より2人拡大し9人を原爆症と認めた。原告の国家賠償請求は退けた。

 2003年4月から全国17地裁で提訴された集団訴訟は、高裁判決を含め国の18連敗となった。判決を受け、河村建夫官房長官は会見で「一連の司法判断も踏まえながら早期解決へ動きを加速しないといけない」と表明。政府は解決に向け、認定行政の見直しと原告の救済策について検討を進める。

 ただ、厚生労働省は敗訴した被爆者への何らかの対応を含む「全員救済」に強く抵抗しており、一括解決への曲折も予想される。

 判決は、病気と放射線との関連の有無について、対立する科学的知見があってもそれを前提に全証拠を総合判断すべきだ▽被爆者援護法の国家補償的性格と被爆者の高齢化に留意が必要-などと指摘。肝機能障害と甲状腺機能低下症に関しては特に「原爆放射線と関連性があるとして審査に当たるべきだ」と明示した。

 その上で、未認定の原告個別に被爆時の急性症状の有無や被爆前後の健康状態を詳細に判断。肝機能障害や甲状腺機能低下症、爆心地から5キロ地点で被爆した場合のがんなど、昨年4月からの現行基準でも積極認定の範囲から外れている病気を認めた。

 山本英典全国原告団長(76)は判決内容を高く評価しつつ「原告306人が認定されるまで心から喜べない。全員が救済されるよう頑張る」と話していた。

首相  「救済観点で対応したい」

 原爆症認定集団訴訟をめぐって麻生太郎首相は28日、官邸で記者団の質問に答え、「昨年の(認定基準)改正で認定範囲が広がったが、それでも司法判断との乖離(かいり)が指摘されている。一連の判決を精査し、被爆者救済の観点で対応したい」と述べた。

(2009年5月29日朝刊掲載)


<解説>全面解決 政治判断急げ

■記者 岡田浩平

 原爆症認定集団訴訟の東京高裁判決は、原告それぞれの被爆の実態に向き合い、国がいまだに救済しない九人を勝訴に導いた。「東京高裁が政府側としても判決を待つ最後。全体判断をしなければならない」。昨年11月の河村建夫官房長官の言葉に従い、政治が訴訟解決の約束を果たす時がきた。

 昨年4月からの現行の認定制度では、がんを中心に積極認定し、年間の件数は前年の23倍まで伸びた。しかし対象の病気は6つ。被爆の実態に見合わないそうした認定行政を、一連の司法判断は厳しく指弾。今回の東京高裁判決も、国と判断を異にする形で肝機能障害やケロイドを原爆症と認めた。

 厚生労働省は「原告の6割は認定され、旧基準ではなかった踏み込んだ判断をしている」と強調する。だが、原告が求める認定行政の見直しや「全員救済」に積極的に取り組むどころか、原告の意見を踏まえた与党の勧告的意見にも干渉し最後まで抵抗したとの批判もある。

 あの日から64年目となる今も心身を襲う病気を原爆のせいだと認めてほしい-。被爆者は老いた体にむち打ち国と闘い、一日も早い解決を求めて厚労省前に座り込む。被爆者行政を根本から改めるのは政治しかない。

(2009年5月29日朝刊掲載)

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