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広島世界平和ミッション 英国編 市民の力 <2> イラク戦争 反対の国民世論 脈々と

 「ブレア 責任を回避」。「誰が責任を取るの?」。第三陣メンバー五人がロンドンで活動していた七月十四日、駅や街頭スタンドにある夕刊タブロイド紙には「バトラー報告」の内容を伝える見出しが躍った。

 イラクの旧フセイン政権が「大量破壊兵器を保有していた」とする英国情報機関の正当性を検証した調査委員会のリポートだ。日本での報道は地味だったが、英国中のメディアが注目していた。

もどかしさ■

 その結果は「情報に重大な欠陥があった」と批判はしているものの、政府に恣意(しい)的な歪曲(わいきょく)や世論をあざむく意図はなかったとして、ブレア政権の責任追及には至らなかった。

 「多くの市民は政府にだまされたと思っています。でも今は首相が失脚するような真実は明らかにならない」。この日、一行が訪ねたオックスフォード・リサーチ・グループ(ORG)研究員のジャネット・ブルームフィールドさん(51)は、冷静に言った。

 ORGは、核兵器廃絶、武器輸出規制などを通じて世界の安全保障を高める調査研究主体の非政府組織(NGO)だ。

 政府と市民のギャップを強く感じていた筑波大一年の花房加奈さん(19)がもどかしそうに言った。「日本でも多くの市民がイラク戦争や、自衛隊の派遣に反対しています。世論調査などにも表れているけれど、その思いがなかなか大きな行動につながらない」

 英国ブラッドフォード大大学院生の野上由美子さん(31)が「でも…」と続けた。「ロンドンではイラク戦争前の昨年二月に、百五十万人が反戦デモに参加して意思表示をした。それでも戦争を止められなかった」

 どうすればいいの?

 若い二人の問い掛けにブルームフィールドさんはしばらく黙した。そして静かに言った。「希望を失ってはいけない。悩みながら、それでも自身で行動することが大事なのよ」

 二月十五日の百五十万人デモを率いたのは、反核運動団体やイスラム教徒、労働者ら二百の市民団体でつくる「ストップ戦争連合」。その日は「国際統一行動日」として、世界の各都市で一千万人がイラク戦争反対を訴えて街頭を埋めた。

 メンバーはそんな舞台を整えた、ロンドン市街にある戦争連合の事務所を訪ねた。壁や窓に張られたいくつもの反戦ポスター。雑然としたその部屋で広報担当のアンドリュー・バーギンさん(50)がイラク戦争について持論を述べた。

選挙の争点■

 「われわれはイラク戦争に大義はないと信じていた。それは今も正しかったと思う。ただ、戦争を止められなかったという現実も認めなければいけない」

 イラク攻撃が始まったとき、被爆地広島でも反戦運動に取り組んだ多くの市民の間に、一種の無力感が広がった。広島であったイラク戦争などに反対する六千人の人文字集会に参加した野上さんや花房さんにとってもショックだった。

 しかし、バーギンさんは「戦争を止められなかったから反戦運動は失敗だったと判断するのは早計だ」と戒めるように言った。「何より多様な市民が国際的に連帯できた意義は大きいし、イラク戦争に対する市民の関心は衰えていない」

 その証拠にロンドンでは今年六月、百五十万人デモにも参加し、イラク戦争反対を明確に打ち出すケン・リビングストン市長が再選された。バーギンさんらも、対イラク政策に反対するデモや集会、機関紙の発行、戦闘状態が続くイラクの子どもたちへの医療支援など活発な活動を続ける。

 「来年は総選挙もある。イラク戦争は国民の関心を呼び続け、大きな争点となるだろう」。バーキンさんはこう力説した。

(2004年10月3日朝刊掲載)

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