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連載・特集

広島世界平和ミッション 英国編 市民の力 <3> メンウィズ・ヒル 米盗聴基地を長年監視

 「ほら、見えるかい」。核軍縮キャンペーン(CND)ヨーク支部メンバーで大学教授のデーブ・ウェブさん(55)が、車内のミッション第三陣メンバーに声を掛けた。

 北ヨークシャー地方の観光地ハロゲート近郊の牧場を抜け、向かった先は米軍通信基地の「メンウィズ・ヒル」。丘陵地の頂上に達すると、羊が群れる緑の農地の向こうに、ゴルフボール状の不気味な白い球体が目に飛び込んできた。

 「通信傍受では、世界最大の盗聴基地だ」。ウェブさんが助手席から説明する。約二百三十ヘクタールの敷地内には、大小二十四個の球体が並び、一つ一つに目的に応じたパラボラアンテナと盗聴機器が内部に設置されているという。

厳しい警備■

 宇宙の米軍事衛星や地上波無線などを利用し、地球上の画像の解析から電子メール、電話、ファクスの交信まで傍受できるというのだ。

 「なんだか怖いですね。住民は何も言わないのですか」。筑波大一年の花房加奈さん(19)がウェブさんに尋ねると、「現地の人たちは、基地のおかげで自分たちの身をテロから守ってくれていると信じているんだ」と肩をすくめて言った。

 車が基地に近づくと、球体は威圧するように車窓に大きく迫った。大きいもので直径三十メートルほど。写真撮影のために道端に車を止めると、間髪を入れずパトカー二台がやって来て、ウェブさんら案内役のCNDメンバーに職務質問を始めた。

 名前と住所、職業などが控えられる。「広島からのゲストと一緒に見に来ただけですよ」。長年、基地の監視や抗議活動を続けているヨーク支部のメンバーは、慣れた調子で応対。警察官らはけげんな視線を送りながら、立ち去った。

 「そこの黄色い線を越えると逮捕されるよ」。車から降り、基地正面ゲートに着くと、ウェブさんは一行に注意を促しながら、基地の説明を続けた。

 「この盗聴基地は、米陸軍が一九五六年に旧ソ連を監視する目的でつくったものだ。冷戦が終わった今は、核兵器関連のほかに、テロや麻薬、ビジネスに関する重要な民間情報まで集めているんだ」

 現在、家族を含め約二千人の米国人が基地内に住む。今は米国家安全保障局の管轄下にあり、米国、カナダ、オーストラリアなどに設置された世界最大の盗聴網「エシュロン」の重要な役割を果たしているという。

 しかし、基地の役割は長い間、秘密にされてきた。七〇年代以降、平和活動家が監視活動をし、内部情報を得る努力を続けた。こうした情報をつなぎ合わせながら、九〇年代後半に入って欧州連合(EU)欧州議会などの調査で「スパイ基地」の実態が浮かび上がった。

デモに2500人■

 英米間には五八年に結んた「相互防衛協定」がある。核兵器システム上の協力や、二〇〇二年の共同臨界前核実験、アフガニスタンやイラクに対する「対テロ戦争」もこの協定に基づいてのものだ。

 「三年前の米中枢同時テロ後、基地警備は強まった。でも、抗議活動は続けている」とウェブさん。昨年七月のデモには二千五百人が集まるなど、英国民にも基地の実態が徐々に浸透しつつあるという。

 胎内被爆者の石原智子さん(58)は、ウェブさんの説明を聞きながら、毎年平和交流で訪れる沖縄のことを思い浮かべていた。

 「米国は『平和のために』と言って同盟国のあちこちに軍事基地をつくる。でも、それが周辺国を刺激し、かえって脅威を増している」と嘆いた。日本の姿ともだぶり、その日は一日中落ち着かなかった。

(2004年10月4日朝刊掲載)

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