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社説・コラム

社説 核禁条約と日本 米の横やりに屈するな

 来年3月に初めて開かれる核兵器禁止条約の締約国会議に、日本がオブザーバー参加しないよう、米国が「横やり」を入れていた。ドイツをはじめ同盟国にも、オブザーバー参加の動きが広がっていることへの強い危機感があるのだろう。

 あきれるのは、日本政府が同調して慎重姿勢を示したということである。広島選出の岸田文雄首相は「核なき世界」をライフワークに掲げているはずだ。オブザーバー参加でさえ米国を説得できないようでは、核兵器廃絶はおろか、「橋渡し役」まで放棄したようなものだろう。

 くぎを刺されて、このまま屈してしまうのか。岸田首相の覚悟が問われている。

 バイデン米大統領は「核兵器のない世界」を目指す一方、他国の軍拡や不穏な動きへの警戒は怠ってはいない。ロシアはウクライナ国境付近に数万人もの軍を派遣し、中国は台湾に軍事的な圧力を強めているからだ。

 そんな中、今月発足したドイツの新政権が、先進7カ国(G7)では初めてオブザーバー参加の方針を打ち出した。欧州各国や米国、カナダが加盟する北大西洋条約機構(NATO)の主要国だけに、参加しないよう米国が働き掛けているという。

 それでも、禁止条約への理解や期待を示す国際社会の動きは止められまい。相手以上の武器を持てば安心だという核抑止力に頼っていても、地域は安定しないばかりか、いつまでも平和は来ない。核兵器が存在する限り、偶発的な事故や判断ミス、テロリストが故意に使うリスクは消えず、人類が滅亡しかねない恐れさえあるからだ。

 欧州では、NATO加盟のノルウェーや、非加盟のスイスとスウェーデン、フィンランドがオブザーバー参加する考えだ。その流れに被爆国の日本が加われば、勢いを増すに違いない。米国が焦りを募らせているのも無理はないのかもしれない。

 トランプ前政権の時だが、米国は禁止条約への賛同が広がらないようアフリカや中南米諸国に「圧力」をかけていた。バイデン政権に代わっても禁止条約に敵対的な姿勢を続けている。

 核兵器を減らしてほしいとの声を無視してきたのは、米国をはじめ保有国だった。しびれを切らして、核なき世界を目指す国々や市民団体が形にしたのが、核兵器を非合法化する禁止条約だった。被爆者の長年の訴えを結実させたと言えよう。

 それを否定するなら、核なき世界に至る別の道筋を世界に示さなければならない。他国より先に使わないとか、持たない国に対しては使わないなど、保有国にしかできない約束や決意を示すのも一つの手ではないか。

 今のように禁止条約を否定し続けたのでは、保有国への疑念を膨らませる一方だろう。

 米国が日本に、オブザーバー参加をしないよう要請したのは11月29日の週だった。その影響か、岸田首相は先週の国会答弁で「今のところ具体的には考えていない」と後ろ向きだった。

 「聞く力」を口にする岸田首相なら、米国への忖度(そんたく)でなく、核廃絶の先導役を期待する地元の被爆者らの訴えにこそ、耳を傾けるべきだ。禁止条約を生かして核なき世界を目指そうとの考えは、G7では少数派かもしれない。しかし世界中で見れば賛同者は、はるかに多い。

(2021年12月22日朝刊掲載)

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