×

連載・特集

中国地方2021回顧 <中> 文芸

地元作家ら光る活躍

原爆文学の役割今も

 この一年、歴史小説家デビューや文学賞受賞など中国地方在住の書き手たちの活躍が目立った。一方、被爆者の児童文学作家那須正幹の訃報や、反戦平和を軸にした詩の同人誌終刊もあり、原爆の惨禍を伝える文芸の役割にあらためて関心が集まった。

 戦国大名の毛利氏と尼子氏の攻防を小説にした「駆ける 少年騎馬遊撃隊」で作家デビューしたのは広島市安佐北区在住の稲田幸久だ。5月に角川春樹小説賞を受け、書籍化した。今後、続編の出版も計画する。岩国市在住の岩瀬成子は「もうひとつの曲がり角」で1月に坪田譲治文学賞を射止めた。

 佐伯区在住の小山田浩子は短編集「小島」を刊行した。3年前の西日本豪雨を題材にした表題作は自身の被災地でのボランティア経験から想を得た。デビューから11年目。精緻な表現でリアルな日常の延長線上にある不気味さを丹念に描く作風は変わらず、その世界観は異彩を放っている。

 2010年に48歳で死去した山口市のミステリー作家北森鴻の作品が再評価される動きも。愛読していた広島県内の書店員が書店のツイッターで「#北森鴻を忘れない」というハッシュタグを付けると人気が再燃し、大手出版社から復刊も相次いだ。

 被爆76年を迎えた広島。7月には人気シリーズ「ズッコケ三人組」で知られる那須正幹の訃報が届いた。79歳だった。子どもと同じ目線で、子どもが夢中になる本を書き続けた。3歳の時に被爆。原爆を題材にした作品にも心血を注ぎ、反戦非核を訴えてきた。

 広島市を拠点に活動してきた詩のグループ、広島詩人会議の同人誌「詩民」は57年の歴史に幕を下ろした。詩画人四国五郎らがグループを結成した1964年に創刊。戦後のヒロシマを市民感覚で語り継いだ同人誌だったが、会員の減少や高齢化にあらがえなかった。

 峠三吉「原爆詩集」の表紙絵や絵本「おこりじぞう」の作画で知られる四国を巡っては、貴重な資料の発見もあった。自らの従軍体験をつづった詩編の草稿ノートと清書原稿が、広島市内のアトリエで見つかった。表紙に「戦争詩」と大書されたノートに50編余りの詩が残されていた。

 今年は広島市出身の被爆作家、原民喜の没後70年の節目だった。「広島文学資料保全の会」と市は、民喜の手帳や峠の日記など計5点を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界の記憶(世界記憶遺産)登録に申請。その後、国内推薦の選定から漏れた。

 そんな中、平和への願いを次代に引き継ぐ思いはともり続ける。被爆2世で広島市出身の朽木祥の小説「光のうつしえ」の英語版が世界各国で刊行され、多くの反響が寄せられた。広島県内の書店員たちでつくる広島本大賞には、東区出身の東京大2年庭田杏珠らの「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」が選ばれた。

 活字離れが常々叫ばれる中で地方出版を盛り上げようとする取り組みが目を引いた。広島県北広島町の「ぞうさん出版」は創業して3年。ベストセラー「バカの壁」で知られる養老孟司の新刊「養老先生のさかさま人間学」を刊行し、注目を浴びた。

 岡山市出身の作家小川洋子は菊池寛賞、紫綬褒章を受けた。第53回中国短編文学賞は廿日市市のアンベ章「川の聲(こえ)」が大賞を受賞した。=敬称略(鈴中直美)

(2021年12月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ