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連載・特集

広島世界平和ミッション 英国編 市民の力 <5> 異文化教育 移民の街 共生へ「祭り」

 ハトをあしらった平和ポスター、戦争で傷ついた子ども、スカーフで頭を覆ったイスラム系女性や黒人男性の顔写真…。

 世界の武器が展示されたリーズ市の「国立兵器博物館」。その入り口付近に、物々しい博物館とは異質な市民活動用の広い部屋があった。

 「兵器の展示だけでなく、その兵器を使った戦争がいかに悲惨か、いわば武器を『負の展示』として考える博物館にしたかった」。地元の市民団体「Together for Peace(共に平和のために)」のマイク・ラブ議長(50)が、ミッション参加者五人に熱っぽく語り掛けた。

 兵器博物館が一九九六年に建設される際、ラブさんら市民は人を殺す武器を並べ、戦争をたたえる博物館ができることに反対した。リーズには移民受け入れの長い歴史を通じて「異文化に寛容で、平和を愛する土壌がある」と言う。

 建設の過程で市民の要望が採り入れられ、市民活動スペースが確保された。多くの住民が集った「平和祭」の様子を伝える写真など、ラブさんらの活動を紹介する展示コーナーもあった。

 人口約七十二万人のリーズ市には、アフリカや東欧など最近の紛争難民を含め七十五カ国の出身者が暮らす。生活様式の違いなどからくるトラブルはあっても、目立ったものではなかった。

宗教対立も■

 ところが、二〇〇一年の米中枢同時テロ後は「『キリスト教』対『イスラム教』といった宗教的な対立が市民の間に表面化してきた」とラブさんは指摘する。

 状況の悪化を未然に防止しなければ―。ラブさんたちはそんな思いから〇二年四月、民族や宗教の違いを超えて住民が集い、多文化を理解するための「平和祭」を企画。実現に向けた活動の中で市民団体が誕生した。

 ラブさんや若者ら約十人が中心となり、市内の三十団体を束ねて運営する。資金は市議会の助成などでまかなっている。

 初めての平和祭は、昨年十一月に実現した。移民や難民から差別や紛争の実態を聞き、彼らの文化を紹介。イラク問題についても討議の場を設けた。今年も年内の実現を目指す。来年の被爆六十周年には「ヒロシマ・ナガサキをテーマに核問題も取り上げたい」とラブさんはメンバーに、資料提供など協力を求めた。

 前日に一行が訪ねた市内の小中高校でも、「平和文化」を育てるためのさまざまな取り組みがなされていた。クオーリーマウント小では、アンゴラやソマリアなど紛争地からの難民の子どもの姿が目立つ。「親が目の前で射殺されたつらい過去を背負っている子もいます」とコリーン・ジャクソン校長は打ち明ける。

独自の教材■

 学校の教育理念は、個性を大切にした「多文化共生教育」。人種差別やユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)などの問題も、被害者の手紙や写真など独自の教材を作成して取り組んでいる。

 「幼いころからのこうした多文化教育はとても重要だと思う」。ブラッドフォード大大学院で学ぶ野上由美子さん(31)は実感を込めて言った。

 彼女が学ぶリーズの隣町ブラッドフォードでは、人口約四十六万人の二割以上がインドなど南アジアからの移民。貧困層の移民による犯罪も多く、「もともと暮らしていた英国人が移民に脅威を感じている」とみる。最近では移民排斥を訴える英国民党(BNP)が市議会(定数九〇)で四議席を獲得するこれまでにない事態まで起きている。

 「ファシズムのような考えに便乗しやすいのが目に見える。でもまだ平和活動の活発な英国なら食い止められる」。野上さんは、リーズ市民や教育現場での取り組みに勇気付けられた。

(2004年10月7日朝刊掲載)

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