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社説・コラム

社説 政府予算案 将来世代の声 聞かねば

 政府はきのう、2022年度の予算案を閣議決定した。一般会計の総額は107兆5964億円となり、前年度当初より1兆円近く増え、10年連続で過去最大を更新した。

 100兆円を超えるのは4年連続だ。高齢化に伴う社会保障費や新型コロナウイルス対策の経費などが膨らんだ。

 コロナ禍からの経済正常化を前提に、税収は過去最高を見込むが、歳入の3分の1以上を新規国債の発行で賄う危機的な状況は変わっていない。「借金頼み」の編成で、予算の肥大化に歯止めがかけられない状況は看過できない。財政再建にも目を向けるべきだ。

 岸田文雄首相にとって初の当初予算編成となった。新型コロナウイルス禍で景気が落ち込む中、「経済あっての財政。順番を間違えてはならない」と繰り返し、経済再生を優先させる姿勢を明確に打ち出した。

 今月20日に成立した35兆9千億円に及ぶ21年度補正予算と一体的に編成する「16カ月予算」と位置付け、積極的な財政出動を続ける考えだ。安倍政権や菅政権でも多用された手法だが、査定が甘くなりがちな補正と組み合わせることで財政規律が緩む要因になるとの指摘もある。

 切れ目のない財政支出によって、コロナ禍に苦しむ世帯や事業者への支援は欠かせない。補正を合わせて143兆円を超す膨大な財政出動となる。本当に必要な支出に絞り込めたのか精査しなければならない。国会の審議で厳しく問う必要がある。

 歳出の3分の1を占める社会保障費は、初めて36兆円を突破した。概算要求段階で6600億円と見込んでいた高齢化による自然増分は、診療報酬の見直しや効率化の取り組みなどで、4400億円に抑えたという。だが圧縮効果は限定的だ。

 コロナ対応などで、過去に発行した国債の返済や利払いなどに充てる国債費も増え、24兆3393億円と2年連続で過去最高を更新した。

 新型コロナ対応では、21年度当初予算と同様に予備費5兆円を盛り込んだことも見過ごせない。新たな変異株による感染拡大など予期せぬ事態に対応するため、緊急を要する支出があり得ることは理解できる。

 予備費はしかし、あくまで例外的措置にすぎない。政府の裁量で自由に使える巨費を当たり前のように当初予算に計上する姿勢は改めなければならない。

 新規国債の発行額は36兆9260億円で、うち30兆6750億円が赤字国債である。堅調な企業業績を受けて税収を過去最高の65兆2350億円と見積もるが、それでも借金なしでは歳出を賄えない。

 結果として国債残高は21年度末に1000兆円の大台を突破し、22年度末には1026兆円に達する見通しだ。25年度までに、借金に頼らず政策経費を賄う基礎的財政収支を黒字化する目標は絶望的な状況だ。

 来夏の参院選を見据え、継続的な財政出動を求める与党の声は強まっている。野放図な歳出が続けば、将来世代への借金の付け回しが膨らみ、財政の持続可能性にも黄信号がともりかねない。

 首相は将来世代の声にも「聞く力」を発揮し、歳出、歳入両面にわたる抜本的な改革の議論を始めるべきだ。

(2021年12月25日朝刊掲載)

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