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「黒い雨」指針案受け入れ表明 老いる被害者に配慮 広島市・県

 広島原爆の「黒い雨」被害者を被爆者と認定する新たな国の指針改正案について、広島市と広島県が24日、受け入れを表明した。切り離すよう求めてきた11疾病の発症は要件として残っているが、老いを重ねる被害者の多くが救済される点を重視。来年4月からの救済開始をにらみ、受け入れを決めた。(久保田剛、岡田浩平、松本輝)

 「賛成はできないが反対はしない」。この日、記者会見をした広島市の松井一実市長は遠回しな言い方で受け入れを表明した。がんや白内障など11疾病の発症を要件から外すように求めてきただけに、苦しい立場がにじんだ。「長引かせては救われる方の希望をしぼませてしまう。非常に難しい判断だが、多くが救われることから決断した」と述べた。

 国は改正案で「黒い雨に遭ったことが否定できない場合」は被爆者と認めるとした。広島県が受け入れを決めた背景には、国の援護対象区域よりも広い「大滝雨域」など、これまで県と市が求めてきた雨域での救済につながるとの見通しがあった。

 記者会見した湯崎英彦知事は、改正案に沿えば9割以上の被害者を救済できるとの認識を示した。国は来年度からの制度変更を目指す。引き続き国へ疾病要件の除外を求める考えを強調しつつも、「国としても最大限配慮いただいた」と感謝した。

 被爆者健康手帳を申請している人からは安堵(あんど)の声が聞かれた。生後3カ月ごろ、爆心地から約14キロの砂谷村(現佐伯区)で黒い雨に打たれたという大江千代子さん(76)=佐伯区湯来町=は「やっと被爆者と認めてもらえる」と声を弾ませた。

 小学生の時から腰の痛みで通院。白内障など多くの病と闘ってきた。「黒い雨の被害は原爆投下から76年たった今も続いている。誰もが救われる制度になってほしい」と望んだ。

【解説】要件譲らぬ国 理由説明を

 広島県と広島市が受け入れた国の改正案は「黒い雨」の被害者の救済拡大にはつながるものの、11疾病の壁は残ったままだ。黒い雨訴訟で確定した広島高裁判決は疾病を要件とせず原告全員を被爆者と認めており、隔たりがある。被害者の高齢化が進む中で、県と市は実質的に大半が救済されるとみて、「実を取る」判断をしたと言える。

 改正案は、従来の援護対象区域(大雨地域)の外であっても、雨に遭ったことが否定できなければ被爆者と認めるとした。県と市は長年にわたり、独自の雨域調査も示しながら援護区域の拡大を求めてきており、司法判断を経てようやく訴えが受け入れられた形だ。

 一方、協議の争点でもあった疾病要件については、国は譲らなかった。7月の高裁判決は疾病の発症を要件としなかったが、菅義偉首相(当時)は上告断念時に発表した談話で「重大な法律上の問題点がある」などとして判決の一部を受け入れない考えを強調していた。なぜ疾病要件にこだわるのか。国はその理由を説明する責任がある。

 県と市が改正案の受け入れに転じる要因となったのが、白内障を過去の手術歴も含めて認めるとした点だ。加齢に伴い多くの人がかかる病気。黒い雨に遭ったとして被爆者健康手帳を申請している人の大半が救済されるとみて、「平行線になるよりは」と早期救済を優先する判断に傾いた。

 救済は差し迫った課題で、救済拡大につながる県と市の判断を歓迎する申請者も多いだろう。ただ、疾病要件を維持したい国側の「折衷案」の色合いも濃く、不透明さも残る判断となった。(明知隼二)

(2021年12月25日朝刊掲載)

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