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核軍縮 停滞打破なるか 禁止条約発効後初 4日からNPT会議

 核拡散防止条約(NPT)の運用状況を議論する再検討会議が来年1月4~28日、米ニューヨークの国連本部である。会議は5年に1度だが、新型コロナウイルスの感染拡大による延期で約2年遅れての開催。核軍縮停滞への不満を背景に制定された核兵器禁止条約が発効して初めての会議となる。核兵器保有国と非保有国の溝は深く、交渉は難航が予想される。核兵器廃絶に向けた成果を得ることができるのか。会議のポイントや日本政府の役割を整理した。(小林可奈)

議論のポイント

最終文書採択 米が鍵

 前回2015年の再検討会議は、核兵器の非人道性から法的禁止を求める非保有国と、段階的な核軍縮を主張する保有国が真っ向から対立。中東の非核化を巡っても意見が割れ、最終文書を採択できなかった。

 2回続けての失敗となれば、国際核秩序の「礎石」とされるNPT体制が揺らぎかねない。立場を超えた各国の協調が欠かせず、まずは全会一致が原則の最終文書の採択ができるかどうかが焦点となる。

 前回の決裂を受け、非保有国が主導して制定した核兵器禁止条約が今年1月に発効した。今回の再検討会議に向けた19年の準備委員会では、条約についての文言を巡り保有国と非保有国が対立。再検討会議の議論の下敷きとなる勧告案を採択できなかった。

 一方で、欧米の「核同盟」である北大西洋条約機構(NATO)に加盟するドイツとノルウェーは核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加する方針を決めた。存在感を増す同条約について、再検討会議でどのような議論がなされるのか。注視が必要だ。

 会議の成否の鍵を握る米国では「核兵器なき世界」を掲げるバイデン政権が誕生した。トランプ前政権は後ろ向きだった米ロ唯一の核軍縮条約、新戦略兵器削減条約(新START)の延長を実現。形骸化が進むNPT体制の再建も図っているとされ、対応が注目される。このほか、前回の決裂につながった「中東非大量破壊兵器地帯」構想や、オーストラリアが米英との安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じてNPT体制の「抜け穴」とされる原子力潜水艦を導入する計画も議論になりそうだ。

被爆国の役割

合意形成へどう貢献

 核兵器保有国と非保有国の溝を埋められず、前回は決裂した再検討会議。唯一の戦争被爆国として参加する日本は橋渡し役として、核軍縮を着実に進める合意形成へ貢献が求められる。

 10月、被爆地広島の選出で核兵器廃絶をライフワークとする岸田文雄首相が誕生した。首相は林芳正外相と被爆2世の寺田稔首相補佐官(衆院広島5区)を派遣する方針。核戦力の透明性を高める情報公開を全保有国に求める考えも表明し、会議で成果を生み出すことに意欲を示した。

 一方で岸田政権は、核超大国・米国との信頼関係なしには核軍縮は進まないとの立場も鮮明にしている。米バイデン政権が検討した「核の先制不使用」政策に懸念を示すなど「核の傘」に依存する姿勢にも変化は見られない。

 NPTは第6条で保有国を含む締約国に対し、核軍縮に向けた交渉へ誠実に取り組むよう義務付ける。2000年の再検討会議では「核廃絶への明確な約束」との合意まで交わした。約束を果たさないことへの非保有国の不満は大きい。米国を含む保有国にこの合意を再確認させ、具体策を求めることも日本政府の役割となりそうだ。

 新型コロナウイルスの影響で日本被団協は再検討会議への代表団派遣を中止した。被爆地の広島、長崎両市の市長も渡米しての参加を断念している。被爆地の声を直接届けることができない会議で、日本政府の言動はより重みを増す。

広島平和文化センター前理事長 小溝泰義氏に聞く

自制働けば決裂回避も

 2005年と10年の再検討会議に日本政府代表団の一員として出席し、15年も現地で傍聴した広島平和文化センター(広島市中区)の小溝泰義前理事長(73)に会議の見通しを聞いた。

  -成否をどう見ますか。
 核軍縮に理解を示すバイデン米政権の誕生など好材料もある一方、ウクライナ情勢を巡る米ロ、覇権争いを続ける米中など保有国間の対立は続いており、楽観できない。画期的な核軍縮の進展は難しいだろう。

 一方で、大多数の国が前回に続く決裂を回避したいと思っている。交渉がうまく進めば、最終文書で核兵器禁止条約の発効に触れることも不可能ではないだろう。各国は協力して最終文書を採択し、核軍拡に向きそうな国際情勢のベクトルを核軍縮に戻さなくてはならない。

  -核兵器禁止条約の発効後では初の会議。条約を巡る保有国と非保有国の対立が及ぼす影響は。
 意見の相違は極めて大きいが条約は既に発効した。条約制定を前に条約推進国が、核兵器の非人道性を巡る議論で妥協できなかった15年とは状況が違う。核軍縮を前進させるため、対立を生む条約への賛否を議論することは得策でないとの見解は推進国側にもある。立場の異なる国が互いに自制すれば、条約が紛糾の要因になることは避けられるだろう。

  -オンライン参加になるとみられる被爆者や被爆地の役割は。
 被爆者の言葉は胸に響く。交渉に変化を及ぼし、政治を動かすことができる。オンラインでも国際社会への発信は非常に大切だ。世界の人に被爆地を訪れてもらうための呼び掛けも重要になる。

こみぞ・やすよし
 1948年生まれ。70年に外務省に入り、国際原子力機関(IAEA)事務局長特別補佐官やクウェート大使などを歴任。同省退職後の2013~19年に広島平和文化センター理事長、平和首長会議(会長・松井一実広島市長)の事務総長を務めた。

核拡散防止条約(NPT)
 1970年に発効し、日本は76年に批准。191カ国・地域が加盟し、95年に無期限延長が決まった。「核軍縮」「核不拡散」「原子力平和利用」の3本柱で構成。核兵器の保有を米ロ英仏中に限定し、他の国には製造や取得を禁じる代わりに原子力の平和利用を認める。北朝鮮は2003年に脱退を表明した。条約の運用状況を点検するため、原則5年ごとに再検討会議を開催。10年は核軍縮など64項目の行動計画を柱とする最終文書を採択したが、15年は採択できずに決裂した。

(2021年12月27日朝刊掲載)

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