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連載・特集

イワクニ2021 外来機や艦船続々

 米軍岩国基地(岩国市)は2021年、米空軍などの外来機の飛来や港湾施設への大型艦船の寄港が相次いだ。台湾海峡を巡り米中の緊張が高まる中、基地の軍事的な性格が変化していることが表面化し、市民団体からは不安の声が相次いだ。20年から新型コロナウイルスの影響が続く一方、国内の感染が落ち着いた夏以降は、岩国市などによる日米交流事業も徐々に再開した。(永山啓一)

訓練の激化

滑走路と港 利用拡大

 今月3日の日没前だった。暗闇が迫る米軍岩国基地の上空に見慣れない戦闘機4機が現れ、北側から次々と滑走路に着陸した。米アラスカ州の空軍基地から飛んできたステルス戦闘機F35A。その後も2回に分けて飛来が続き、計12機が周辺空域で訓練をした。同型機の短期の飛来はこれまでもあったが、岩国基地所属機との数週間に及ぶ訓練は初めてだった。

 基地報道部は、飛来の理由を「海兵隊F35Bと航空自衛隊とともにパートナーシップを強化し、軍の属性を超えた運用能力を高め、自由で開かれたインド太平洋地域を確実なものとするため」と説明した。軍種や日米の垣根を越えて協力関係を強化する狙いだった。

 台湾海峡を巡る米中関係の緊張の高まりを背景に、本来、海兵隊と海軍の航空部隊の拠点である岩国基地には、20年末から空軍機の飛来が増えている。

 21年3月には、米空軍ステルス戦闘機F22ラプター6機が米ハワイ州の基地から飛来した。離陸直後に垂直に近い角度で急上昇する「ハイレートクライム」などの激しい騒音を伴う訓練を約1カ月間、繰り返した。人がうるさいと感じる70デシベル以上の騒音は3月に基地南側の尾津町で1746回を記録した。10年5月の滑走路沖合移設以降の月別で最多となった。

 航空機の飛来だけでなく、基地内の港湾施設には艦船の寄港も急増した。9月の海上自衛隊の護衛艦いずもに続き、10月の米海軍遠征洋上基地ミゲルキース、11月の米海軍強襲揚陸艦アメリカなど毎月のように大型の艦船が入ってきた。

 国は滑走路沖合移設と併せて港湾施設を整備した理由を「補給物資の荷揚げ作業のため」としていた。しかし米側は相次ぐ艦船の寄港目的を「艦上訓練」「運用能力の確認」などとしており、国の説明の範囲を超える運用が続く。

 岩国基地は在日米軍基地の中で唯一、滑走路と港湾施設が隣接している。21年は、航空機と艦船の両方で米軍の基地の利用が拡大した一年でもあった。

市民の不安

基地機能強化に抗議も

 岩国基地に米空軍機の飛来や、米海軍などの大型艦船の寄港が相次ぐ中、基地の機能強化に反対する市民団体は、岩国市へ抗議を繰り返した。

 今月16日にも、市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」が8日に米陸軍揚陸艇フォートマックヘンリーが演習の一環として寄港したことに抗議した。久米慶典顧問は「岩国基地は航空基地だけでなく、もはや軍港の様相を呈している」と、市民の一人として不安を吐露した。

 一方、岩国市は艦船の寄港に関して「周辺住民への影響は少ない。基地の機能強化には当たらない」と強調する。空軍機が飛来した際も「一時的な飛来は基地機能の変更には当たらない。良いか悪いかを論じる立場にない」などの認識を示し続ける。

 市は航空機の騒音被害が増えたことを確認するたびに、基地や国に騒音を減らすよう配慮を求めた。それでも市が7、8月、18歳以上の市民を対象に実施したアンケートでは、基地の安全対策を「満足」とした回答は24・1%。調査した全31項目のうち2番目に低い満足度だった。

日米交流

夏以降 徐々に再開

 新型コロナウイルスの感染拡大は、岩国市が進める岩国基地と市民との交流にも大きな影響を及ぼした。基地内の流行のピークは88人が感染した1月だった。基地が感染経路などの情報を市民に公表しないことに、市議会内では「情報が隠されているのではないか」などと疑問の声が噴出。情報共有の強化を求める声が相次いだ。

 基地は同月下旬から、日本国内に先駆けて軍人・軍属やその家族へのワクチン接種を始め、その様子を公開した。接種が進むとともに感染者は減った。それでも、例年20万人前後が訪れる5月の基地の公開イベント「フレンドシップデー」は2年連続で中止となるなど、上半期を中心に交流行事の見合わせが続いた。

 感染が落ち着いた夏以降は交流も徐々に復活した。7月には東京五輪に出場する米国のソフトボール代表とフェンシング女子エペ代表が基地内を拠点に合宿した。市民との触れ合いはできなかったが、練習の見学や書道パフォーマンスなどで親睦を深めた。

 「基地との共存」を掲げる市も交流事業を積極的に再開した。市教委は市内の小中学生に英語に親しんでもらおうと基地内で空中給油機を見学し、隊員から話を聞くイベントを初めて開催。外務省も米国防総省との共催で日米の中高生の交流行事を初めて開くなど、新たな動きも広がった。

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■1月

5日 正月三が日に米軍岩国基地周辺で測定した航空機騒音は1回
   で前年の13回に比べ減少したと岩国市が公表
7日 岩国基地は基地関係者11人の新型コロナウイルス感染を発
   表。感染確認は10日間で57人と急増
12日 県と岩国基地周辺の2市2町でつくる連絡協議会は基地に
    対し、新型コロナ対策の徹底や適切な情報提供を要請
22日 中国四国防衛局は陸上自衛隊の輸送機オスプレイ5機
    を2月上旬から岩国基地に陸揚げすると市に伝達
25日 岩国基地は米軍人たち向けの新型コロナワクチンの第1便
    が到着したと発表
26日 市議会は中国四国防衛局岩国防衛事務所に岩国基地内の新
    型コロナ感染対策の徹底と適切な情報公開を要請
28日 井原勝介前市長が岩国市に、同市愛宕町の日米共同の運動
    施設について市と基地が交わした協定書の公表を求めた訴
    訟の控訴審判決で、広島高裁は訴えを棄却

■2月

14日 陸自の輸送機オスプレイ5機が岩国基地に陸揚げ
25日 新型コロナ感染防止のため、5月に予定していた岩国基地
    の一般公開イベント「フレンドシップデー」の中止を決定
26日 岩国基地が新型コロナワクチンの接種会場を報道陣に公開
    =写真

■3月

1日 岩国地区消防組合は緊急車両が米軍住宅「アタゴヒルズ」を
   通り抜けできる協定を岩国基地と締結
12日 米空軍のステルス戦闘機F22ラプター6機が岩国基地に
    飛来=写真
22日 市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク
    (瀬戸内ネット)」が市に対し、F22の飛来と訓練に抗
    議するよう申し入れ
26日 福田良彦市長がF22の訓練による騒音が急増しているこ
    とを受け「国からの事前説明があるべきだった」と苦言
27日 岩国市愛宕町に多目的広場「ふくろう公園」がオープン。
    岩国基地沖合移設に絡む愛宕山地域の一連の開発が23年
    を経て完了
31日 F22の訓練を巡り、福田市長が岩国基地のフレデリッ
    ク・ルイス司令官と意見交換

■4月

5日 岩国基地南側の岩国市尾津町で3月の航空機騒音が1746
   回となり、滑走路沖合移設以降の月別最多だったことが判明
13日 岩国基地周辺の住民が騒音被害を訴えた訴訟で最高裁は夜
    間・早朝の飛行差し止めを求める上告を退ける決定。過去
    分の騒音被害として国に約7億3540万円の賠償を命じ
    た広島高裁判決が確定
29日 岩国市の小学生と保護者が岩国基地内で米海兵隊員たちと
    交流するイベントを市教委が開催

■5月

4日 中国四国防衛局が岩国基地所属の空母艦載機が5~15日に
   硫黄島(東京都)で陸上空母離着陸訓練(FCLP)を実施
   すると岩国市などに伝達
7日 陸自の輸送機オスプレイ1機が配備先の木更津駐屯地に移
   動。2月に到着していた全5機の移送が完了
12日 岩国基地に米海軍の掃海艦パトリオットが寄港
17日 中国四国防衛局は、空母艦載機がFCLPを終えたと岩国
    市に通知
21日 空母艦載機の着艦資格取得訓練(CQ)が硫黄島付近の洋
    上で始まる
25日 CQが終了

■6月

3日 村岡嗣政知事たちが岸信夫防衛相とオンラインで面談。岩国
   基地周辺市町への再編交付金制度の継続と恒久化を要望
9日 岩国錦帯橋空港で米軍機のトラブルにより、全日空2便に行
   き先変更や遅れが発生
11日 岩国基地が岩国市内の縫製業者などを対象に基地の祭典で
    使う軍服の発注に向けた説明会を開催
18日 岩国基地が日本人従業員を対象に新型コロナワクチンの接
    種を開始
24日 岩国基地に米海軍の貨物船フィッシャーが入港し、米陸軍
    のヘリAH64アパッチ4機を陸揚げ

■7月

5日 東京五輪の事前合宿のため、米国ソフトボール選手団が岩国
   錦帯橋空港に到着=写真。岩国基地を拠点に岩国市内で練習
13日 東京五輪の事前合宿のため、米国のフェンシング女子エペ
    代表が岩国錦帯橋空港に到着。岩国基地を拠点に岩国市内
    で練習
26日 岩国基地所属のステルス戦闘機F35Bが飛行中に落雷被
    害を受け、米海軍安全センターが最も重大な事故と判断し
    ていたことが判明

■8月

17日 岩国市が盆期間中の岩国基地周辺の騒音状況をまとめ、1
    3~16日の期間中に戦闘機の飛行がなかったとの見解示
    す
22日 米海軍貨物弾薬補給艦カール・ブラシアが岩国基地に寄港

■9月

2日 8月の岩国基地南北の騒音測定回数が滑走路沖合移設以降の
   月別で最少だったことが判明。空母艦載機のアフガニスタン
   派遣などの影響とみられる
23日 岩国市教委が親子連れを対象に岩国基地内の交流ツアーを
    開催
30日 海上自衛隊の護衛艦いずもが岩国基地に寄港=写真

■10月

3日 外務省などが日米の中高生が岩国基地内で交流するイベント
   を初開催。2日間の日程を終える
4日 市民団体「住民投票を力にする会」が護衛艦いずもの寄港に
   反対し、岩国市に抗議
5日 護衛艦いずもが岩国基地所属のステルス戦闘機F35Bとの
   発着試験を終えて、同基地に寄港▽岩国基地所属の2機のF
   35Bが「燃料補給のため」として益田市の萩・石見空港に
   緊急着陸▽市民団体「瀬戸内ネット」が護衛艦いずもによる
   岩国基地所属のF35Bの運用に反対するよう岩国市に要請
7日 空母ロナルド・レーガンとともに中東に展開していた空母艦
   載機が相次いで岩国基地に帰還
14日 米海軍の遠征洋上基地ミゲルキースが米軍岩国基地に寄港
20日 市民団体「瀬戸内ネット」が米海軍ミゲルキースの岩国基
    地の寄港を受け、基地の軍港化に反対するよう岩国市に申し入れ
22日 岩国基地で日米共同の警備訓練が29日までの日程で始ま
    る
28日 岩国市は、岩国基地で実施中の警備訓練で米軍のヘリコプ
    ターが長時間、市街地を低空で飛行したとして、中国四国
    防衛局に再発防止を申し入れ

■11月

11日 村岡知事と岩国市の福田市長が岸防衛相に市町向けの再編
    交付金の継続などを要望▽岩国基地所属のステルス戦闘機
    F35Bが離陸滑走中にバードストライクを起こし、米海
    軍安全センターが最も重大な事故と判断していたことが判
    明
18日 米海軍の強襲揚陸艦アメリカが岩国基地に寄港
19日 強襲揚陸艦アメリカの内部を報道陣に公開
22日 基地機能強化に反対する市民団体4団体が、相次いで岩国
    市に強襲揚陸艦アメリカの寄港に抗議するよう申し入れ

■12月

3日 米空軍のステルス戦闘機F35A4機が岩国基地に飛来。そ
   の後も同型機が飛来し、計12機に
7日 F35Aの飛来に抗議し、二つの市民団体が岩国市に申し入
   れ
8日 米陸軍揚陸艇フォートマックヘンリーが岩国基地に寄港
9日 岩国市への騒音苦情が64件となり、21年度の1日当たり
   最多に
16日 市民団体「瀬戸内ネット」が米陸軍揚陸艦の寄港につい
    て、岩国市に抗議の姿勢を示すよう要請
24日 岩国市など岩国基地周辺の2市2町が受給している米軍再
    編交付金について、防衛省は2022年度以降も後継制度
    による延長方針を表明

(2021年12月25日朝刊掲載)

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